煉獄
▱
あたしは光輝く焔に包まれていた。
不思議と熱くはないけれど、どこまでも揺らめく真っ白な世界。
深い海の中に沈んでいくような感覚はこれが初めてではなかった。
ここは一体なんなのか、あたしは知っている。
聖なる教でいうところの生と死の狭間、死者の魂を浄化する煉獄だ。
それでも、あたしにとってはただの夢と現の境界でしかなかった。
あたしは思考する。
今まで何度、死を経験してこの場所へ来ただろう。
このまま怠惰にたゆたっていられたら、どれだけ楽だろう。
けれど、煉獄の焔に焼かれてなお、浄化を拒むように転生してしまう。
そのたびに膨れ上がる
いくら
あたしを包む煉獄の焔は大きな不死鳥の翼となる。
そしてまた次の一瞬には地獄さながらに続く現実へと降り立つのだろう。
幾度となく繰り返してきたそれも、しかし今回はどこか違っていた。
――遠くからあたしを呼ぶ声が聴こえる。
とても居心地が良く懐かしくもあり、思い出そうとしても浮かんではこなかった。
不意に暖かいものに包まれた感覚があり、誰かと心が繋がったようでもあった。
あたしは卵の殻を破る雛鳥のように覚醒していく。
ゆっくりと目を開けると眠っているヒツギさんの顔が近くに見えました。
いつの間にか眠っていたらしく腰に手を回されています。
♤
俺は不意に目覚めて意識を取り戻した。
今のはヒルドアリアの記憶なのか。
それとも深層心理かなにかだったのだろうか。
思考がぼやけつつも部屋を見回し、状況を整理していく。
俺は神鎧お披露目の後、彼女の控え室で話をしていたはず。
大剣は召喚回帰されていて、俺の身体に折り重なるようにしてヒルドアリアが眠っている。
時間はすでに小一時間は経っているのだろう、陽が傾き始めていた。
そろそろクランフェリアの部屋へ戻らなくてはいけない。
クッションを枕代わりに、彼女をそっと寝かせて羽織っていたストールを身体に掛けておく。
まだ陽も当たっているので、おそらく風邪をひくことはないだろう。
黙って帰るのも悪いので、書き置きを残してストールに挟んでおいた。
「またな、ヒルドアリア。」
彼女の肩に軽く手を置いて、静かに部屋を後にした。
†
神鎧お披露目の後、禊の湯浴みを終えて管理施設の自分の控え室へと戻ります。
部屋の中ではヒツギ様がソファーにもたれて眠っていました。
本を読んでいたのか手元には哲学書が開かれたままです。
わたくしはお茶を煎れる準備をして彼の隣へと座ります。
「あなた様、ここで眠ると風邪を引いてしまいますよ?」
手を添えてそっと彼を起こします。
「ん……クラン、戻っていたのか。すまない、寝てしまっていた。」
「大丈夫ですよ。今お茶を煎れますので、そのまま楽にしてください。」
そうして二人分のお茶を煎れると一つを手渡します。
「熱いので気をつけてくださいね。」
「ありがとう。ところでお披露目の済んだこの後はどうするんだ?」
喉を潤わせて、ひと息入れつつ考えます。
「今から南東部のわたくしの家へ帰るには遅くなり過ぎてしまいます。明日からちょうど週末ですし、この休みは中央部都市で過ごしましょうか。」
「それもそうだな。ここに来るまで蒸気自動車で三時間はかかったわけだし、この街でゆっくりするのも悪くない。」
「ここから少し離れた一等地に巫女神官用の保養施設があります。今日はこの近くで一泊をして、明日は視察と休暇を兼ねてそちらへお邪魔しましょう。」
彼は立ち上がりながら話します。
「わかった。それならそのように予定を入れてくる。次いでに今晩の食事と宿もな。」
「はい、お願いします。」
わたくしは笑顔で返事を返しました――
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