巫女の少女

    ♤


「さあ、お入りください。ヒツギさん。」


 言われるままに中へ足を進める。

 部屋の作りはクランフェリアの控え室と同じだ。


 家具が少なく開放的で、無駄な物が一切ない計算された配置に見える。

 違うところといえばヒルドアリアの客間は床に井草で織った板が敷かれていて、ソファーがなく低い机とクッションがいくつか置かれていることだった。


「お茶を淹れますので適当に座っててください。」


 なんとも不思議な少女だった。


 最初はどこか近寄りがたい雰囲気を纏っていたはずが、今は微塵も感じられない。

 ヒルドアリアが茶をトレーに乗せて俺の隣に座る。


「どうぞ!粗茶ですけど!」


「ああ、ありがとう。」


 彼女から茶を受け取り、ひと口すする。


「美味いな。あっさりとして飲みやすく温まる。」


「えへへ、お口に合ったなら良かったです!」


 人懐っこい可愛い笑顔をするヒルドアリア。

 少しばかり調子が狂うが本題に移ることにする。


「さっきの話の続きなんだが、俺が君に似ているとか何度目なのかという事について教えてほしい。」


「んー、何から話しましょうかね。」


 ヒルドアリアは口元に指を当てて考える仕草をする。

 彼女は俺の目を見つめ、一瞬の間をおいてから口を開く。


「あたし、不死なんです!」


 その言葉に二人の間に沈黙が流れた。


「……不死?」


 その意味は理解できるが、ついオウム返しに訊いてしまった。


「はい。不死です。つまり死なない躰、ということです。永遠の十四歳です!」


 俺は冷静になって考える。


「君が……ヒルドアリアが不死だとして、俺が君と同じ体質だと……そう言うのか?」


 もしそうであれば、先ほど出会った時の『何度目』という質問も納得するが、俺自身は明確に死んだ記憶が無いから否定も肯定も出来なかった。


「はい!あなたからは、あたしより弱いといえど同じ神鎧アンヘルの力を感じます!あ、ひょっとして記憶が生前に戻るタイプですか?それとも、記憶が残らないタイプなんでしょうか?」


 興奮気味の彼女は前のめりにまくし立てる。

 俺は勢いに気圧されて、うっかり彼女の肩を掴みながら身体を引いてしまった。

 当然ヒルドアリアは俺の方へ勢いよく引っ張られる形になる。


「あわわっ、危ないですっ!」


 その言葉に反応して咄嗟に彼女を守るように抱いて倒れ込んだ。

 その瞬間、何か見知らぬ光景を……いや、失った記憶のようなものを垣間見る感覚が襲う。

 それは俺とヒルドアリアが二人で見知らぬ街中を仲良さげに歩いている光景だった。


「な、なんでしょうか。今の……」


 眼前の宝石のような紫瞳と見つめ合う。


「君にも見えたのか?」


 俺にとって二度目の現象を目の前の少女も見たらしかった。

 俺は懐から血濡れたロザリオを取り出し眺める。


「なんですか、それ?」


 ヒルドアリアは興味を持ったのか手の中のロザリオに触れてくる。

 すると眩い光が発せられて身の丈ほどの大剣が俺達の間に顕現した。


「ひゃっ!なんなんですかこれ……って、あれこの剣なんか見たことあるような……」


「なにか知っているのか?」


 俺は身を起こし、大剣に手を添えて彼女に訊いた。


「うぅん……見覚えはあるのですが出てきません。ここまで出かかってるんですけども。」


 ヒルドアリアは首下に手を掲げる仕草をする。


「あたしの神殿に戻れば文献とかあると思うんですが……」


 そう言って彼女が大剣に触れたその時だった。


 再び目の前が真っ白になって記憶の奔流が頭の中へと流れこんできた。


 俺とヒルドアリアが二人で食事をしているところ。

 彼女と共に巨大な異形と対峙する光景。

 そして、彼女が悲痛な面持ちで俺を見ている場面。


 さらには心の奥底に落ちていくように、真っ白な光で意識が遠のいていった――

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