服飾の都

    ☆


 クランとおにいちゃんの三人で一緒に街へとやってきた。


「今日も良い天気で気持ちいいねっ!」


 蒸気自動車を運転するおにいちゃんの真後ろで身を乗り出して風を気持ち良く受ける。


「あんまりはしゃいでいると危ないぞ、パフィーリア!」


 笑いながらおにいちゃんが言った。


 パフの街は服飾の都と言われるくらい針仕事が盛んで色々な服が作られてた。

 他にも小物やアクセサリーなどの雑貨、花や植物から抽出した香水や化粧品なんかも扱うお店がたくさんあって女の人に人気だ。


「パフィの街はとても華やかで素敵ですね。」


 クランがお店を眺めて言った。


「お店で売られる服だけじゃなくて、聖別される巫女神官の服や式典用のコートとかもここで作ってるんだよ!」


「せっかくだからどこか寄ってみるか。クランならきっとなんでも似合うだろうな。」


 おにいちゃんが微笑んでクランを見る。


「もう、あなた様ったら。わたくしは別に今のままでも……」


 まんざらでもない顔でクランが照れてた。

 ふたりの様子を見下ろしていると、お腹の虫がざわざわとしてきた。

 街中を見渡していると道行く人達が声をかけて手を振ってくれた。


「くひひ、こんにちわあっ!」


 パフもお返しに手をあちこちに振り返してた。


「パフィーリアはすごく人気があるんだな――っと、何やら人だかりが出来ているな。」


 おにいちゃんは車をゆっくり走らせながら前方に見える人の集まりを覗き見る。

 パフも気になって、おにいちゃんの席の背もたれをしっかり持って背伸びすると、輪の中心には見知った顔が見えた気がした。


    †


 わたくし達は車を近くに止めて、人垣をかき分けるようにして輪の中へ進んでいきました。


「ラクリマリアさん、ちょっと買いすぎなんじゃないですかぁ?」


「なによ。貴方こそ香油やら小物をたくさん買っているじゃない。わたしと大して変わらないわ。」


「あたしはちゃんと自分で持っていられる分だけですから!あなたは補佐官さんに山のように荷物を引かせているじゃないですか。」


 そこには共に補佐官のシスターを連れた、七位巫女神官のラクリマリアと四位巫女神官のヒルドアリアの姿がありました。


「覚えておきなさい。良い衣装はその場で手に入れておかないともう二度と出会えないのよ。一期一会というやつね。それは服でも人でも同じなの。」


「それ、単に物欲や色欲を抑えられてないだけなんじゃないでしょうか。」


 どうやら二人仲良く(?)買い物をして回っているようでした。


 優雅で胸の開いたドレスのような修道服のラクリマリア。

 白い装束に朱いスカートとニーハイの靴下、躰にストールを巻いたヒルドアリア。

 その姿は華やかな南西部の街中でも目を引くほど存在感があります。


「奇遇だな、ラクリマリアにヒルドアリア。この街に来ていたとは思わなかった。」


 二人は声をかけるあの人に気がついて近くへやってきます。


「あっ、御主人様っ――じゃなくて、ヒツギさん!ここで会えるなんてやっぱりあたし達は引かれあっているんでしょうか!」


「また会ったわねヒツギ。こんなに顔を合わせるなんて、わたし達の運命なのかしら。」  


 そしてお互いに顔を見合わせて不思議な空気が流れました。


「俺はクランフェリアとパフィーリアに付き添って街を観光、もとい視察をしているんだ。二人ともずいぶん目立っているぞ。」


 苦笑交じりに彼が言うと、彼女達の後ろで控えている補佐官方も困ったような顔をしました。

 一番の大荷物を引いているラクリマの補佐官が彼女に進言します。


「七位巫女神官様、そろそろ聖堂へお戻りになりませんか?休暇の予定も過ぎていますし、聖務に支障をきたしてしまいます。」


「一日二日くらいどうと言うことはないわ。わたしの仕事ぶりはよく知っているでしょう?それにわたしは自分のしたい事をしたい時にする主義なのよ。」


 ラクリマは向き合って話しをすると、気弱そうな補佐官の方はまるで心を読まれているかのように佇まいを直して畏まります。


「ラクリマリアさんは自由気ままな方ですから、補佐官の方も大変そうですねぇ。」


 ヒルドアリアがのんきな口調で彼に語りかけると、彼女の真面目そうな補佐官が横から口を挟みます。


「四位巫女神官様も人様のことは言えないかと。もう少し聖務にやる気を出していただけると助かるのですが。」


「聞いてください、ヒツギさん!あたしの補佐官は半刻単位で予定を入れてくるんです、ひどいと思いませんか!?」


 あの人にすがりつくように助けを求めています。


「もう、ヒルデもラクリマもここで騒いでたら他のお客さんに迷惑だよ?――だから、どこかみんなでお茶出来るところに行こうよっ!」


 突然のパフィの正論にその場にいた人達は一様に幼い少女を見ました。


「うふふ、みなさん。パフィの言う通りですよ。さぁ参りましょう。」


 そうして、わたくし達はその場から離れるのでした。

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