カフェにて

    ☆


 七人で近くのカフェに行くとテラスにある席に座った。


「おにいちゃん、こっちこっち!」


 手招きして隣に座ってもらおうとすると、おにいちゃんのその隣にクランが並び立った。


「あ!ずるいですっ!あたしもヒツギさんの隣に座りたいのに!」


 ヒルデが抗議の声を上げた。


「くひひ、早い者勝ちだよヒルデ!」


「あなた様はわたくしの補佐官ですから、隣に座るのは当然ですよね。」


 クランは微笑んでおにいちゃんを見上げる。


「流石に一つの席に七人は無理よ。二つに分かれましょう。」


 肩をすくめてラクリマが提言すると、巫女神官四人と補佐官三人で席を取ることになった。


「ま、これが妥当よね。席は近くに寄せるからそれで我慢しなさい。」


 改めて席に座るとクランはちらちらとおにいちゃんを気にするように見てた。

 このカフェはメニューが豊富で見ているだけでお腹の虫が鳴りそうだった。


「んんんっ。たまにはいつもと違う甘味もいいですねぇ!」


 ヒルデが何層も生地が重なったケーキをつつきながら顔を綻ばせる。


「食用の花で彩るなんてお洒落ね。気に入ったわ。」


 ラクリマは小さく真っ赤な薔薇をつまんで眺めてから口に含んだ。


「果物の酸味がほどよく甘みを引き立てて美味しいです。わたくしの家庭菜園でも育てられるでしょうか。」


 クランは苺をかじって小首を傾げてる。

 山のような冷たいクリームの乗ったパンケーキを頼んでいたパフも、食べながらみんなの選んだものに目移りしてた。


 隣の席ではおにいちゃんが珈琲を飲んで他の補佐官二人の話しを聞いているみたい。

 自由奔放なヒルデやラクリマはもっとクランを見習ってほしいとかそんな感じ。


「俺も彼女が少しでも楽になれるようにしないと――むしろもっと頼ってほしいくらいだ。」


 おにいちゃんの声にヒルデが聞き耳を立てていた。


「ヒツギさん、なんてお優しい。むうう、クランフェリアさん、あたしと補佐官を交換しませんか?」


「やめておきなさい、ヒルドアリア。蜂の巣にされるわよ。」


 そうして話しながらお茶を楽しんでいると。


「パフィ、そろそろ戻った方がいいんじゃないでしょうか?」


 時間を見てクランが言った。


「何か予定でもありましたか?」


「午後から学校で授業があるんだけど、もうちょっとここに居たいなあ。」


 ヒルデの質問に答える。


「またすぐに集まってお茶出来るさ。さて車を動かしてくる。」


 そう言っておにいちゃんは立ち上がった。


「わたしはもう少し他のお店を見て回ろうかしら。」


「ええ!?困ります、七位巫女神官様!」


「仕方ないですね、あたしも付き合いますよ。」


「仕方なくありません。もう神殿にお戻りにならないと遅くなりますよ、四位巫女神官様。」


 ラクリマとヒルデは補佐官達とのかけ合いを始める。

 二人はとても自由な感じで羨ましいなあ。


「大丈夫ですよぅ、なんなら先に帰っていてください。あたしは後で『バリスタ』で飛んで帰りますから!」


「四位巫女神官様、安易に神鎧アンヘルを使おうとしないでください。」


 神鎧アンヘルは聖なる教の三位一体、天使をかたどる子なる神で、シスターの中で最も位の高い七人の巫女神官だけが顕現できる特殊な力だ。


 ヒルデの神鎧アンヘル『ベルグバリスタ』は鎧装をまとう二十メートル以上の白い不死鳥で高速飛行ができるみたい。

 その速さは蒸気列車で五時間かかるところを四十五分で移動してしまうらしく一度乗ってみたかった。

 そして、おにいちゃんの蒸気自動車がくるとクランと一緒に乗り込んだ。


「それではラクリマ、ヒルドアリア。わたくし達はこれで失礼します、またお会いしましょう。」


 助手席に座るクランをヒルデは羨ましそうに見て、ラクリマは軽く手を振っている。

 学校へと戻る時間はあっという間で、午後の授業には間に合いそうだった。

 学校の前ではパフの補佐官が待ってた。

 なんとなく虫の知らせのようなものを感じてる。


「五位巫女神官様、どちらに行っておられたのですか。」


「あ、パフは……」


 なんて言おうか考えているとおにいちゃんがパフの前に出てくれた。


「五位巫女神官様は三位巫女神官様の視察に同行して頂いていました。」


「それは聞いていません。勝手に行動をしてもらっては困るということです。しかも許可なく聖堂敷地内から外へ出るなど――予定と規律はしっかり守ってください。」


 強い口調で怒られて、両手を握って俯いてしまう。


「待て。彼女を連れ出したのは俺だ。文句をいうのならまずは俺に……」


「あなた様。」


 クランはおにいちゃんの腕に触れて止める。

 おにいちゃんの前で怒られることの恥ずかしさと悔しさに泣いてしまいそうになるけど我慢した。

 頭の中がざわざわ騒いでいるのを感じながら学校の教室へと向かう。


「パフィーリア!」


 おにいちゃんの呼ぶ声が聴こえたけど、今の顔を見られたくなくて振り向くことはできなかった。

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