神の子
♤
「パフィもまた境遇がとても特殊なのです。」
俺達はパフィーリアの街の宿に泊まっていた。
すでに食事と風呂は済ませてクランとベッドの上で致した後だった。
衣服は脱ぎ捨てたままに、二人並んで寝ながら彼女の話しを聞く。
「彼女の補佐官は遠い血縁関係のようです。パフィの両親は彼女が産まれて間もなく戦争によって他界しましたが、パフィは赤子ながらにして
俺は神鎧お披露目でパフィーリアの顕現した
たしか八メートルほどの蝿を彷彿させるシルエットで、二対の
「パフィは教会に引き取られ巫女神官として育てられますが、幼い頃から周辺地域の方々に神の子として崇められました。ちやほやされる一方で自由とは程遠い閉塞的な生活を余儀なくされたのです。」
神鎧お披露目や街中での少女の人気ぶり、補佐官の厳しさに納得した。
クランもある意味で箱入り娘のごとく周りとは関わりが薄かったようだが、彼女から見てもパフィは一段と閉ざされたものらしい。
「あなた様とパフィの補佐官のやり取りの時、わたくしも謝罪をしようかと考えました。けれど他の巫女神官に頭を下げさせての仲裁となると、パフィに向いている補佐官の反感がさらに強まってしまうと思い、あなた様を抑えるに留まってしまいました……すみません、あなた様。」
身を寄せて甘えてくる彼女。
「いや、俺も軽率だったよ。気を遣わせてしまってすまない。」
頭を撫でて抱きしめる。
「んんぅ、あなた様ぁ……んちゅ。」
クランは俺の上に乗ってキスを落とす。
「――しかしそうなると今でもパフィーリアは抑圧された環境にいるってことなのか?」
温かく柔らかい彼女の豊満な胸を揺すりながら訊いた。
「んっ……そうですね。神の子だという立場は変わっていませんし、あの子は愛情というものをほとんど受けていないように思えます……んふぅ、それを同じ巫女神官であるわたくし達やあなた様へ求めているようにも。」
彼女の吐息が熱くなる。
「そうか……南東部へ帰る前にもう一度だけ、パフィーリアの顔を見ていきたいんだが大丈夫か?」
「はふぅ、わかりました……そのかわり、眠る前に今度はわたくしだけを想って愛してください、あなた様。」
俺は肯定の意味を含めて再びクランと深く繋がった。
†
次の日の朝、正確には日が変わっていたので当日の朝になります。
わたくし達は街の宿を出て、彼の運転する蒸気自動車でパフィの聖堂へと向かいました。
「――パフィーリアに会えないだと?」
彼女の聖堂は固く閉められ、正面扉の前で彼女の補佐官と話しをします。
「五位巫女神官様は神の子としての禊に入りました。突然の訪問をされてもお会いすることはできません。たとえそれが同じ巫女神官様だとしても。」
「神の子の禊とやらは何をしているんだ?」
わたくしはパフィの『
「月に一度、十五日間の断食です。」
「あんな小さな子からそんなに食べ物を取り上げるなんて正気なのか?」
案の定、あの人は憤慨します。
「ただの子供ではありません、神の子なのですよ。これは五位巫女神官様が生まれて十年の間ずっと続けられてきたことです。これ以上の問答は無用です、お引き取りください。」
まるで取りつく島もない様子にわたくし達は踵を返すしかありません。
「まさかこんなことになっていたとは思わなかった。もっと酷いことをされてはいないだろうか。」
車に乗りこみながらパフィの心配をしています。
彼の気持ちがわかる反面、わたくしは複雑な思いを抱いてました。
パフィの
苦行を終えた反動は食欲が限りない暴食となって彼女の
それはわたくしが清貧を貫くことにも似ていました。
自ら質素な生活に身を置きつつも、心の内で周囲に対して嫉妬することでわたくしの
だからといってパフィ自身がそれを理解しているかはまた別の話で、厳格なしきたりが少女の心にどんな影響を与えているのかはわかりませんでした。
彼は車を走らせずに考え込んでいます。
「どうされるおつもりですか、あなた様。」
「――正直に言うとパフィーリアを助けてあげたい。だが手荒なことはできない。これが慣習であるというのなら、なおさらな。今は大人しく帰るしかないだろう。」
「賢明な判断です。それでこそ、わたくしの敬愛するあなた様です。」
そして彼はゆっくりと車を走らせます。
しばらくすると大通りの傍で手を振るヒルドアリアの姿がありました。
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