思惟
†
パフィはちょうど服を脱ぎ終えたところでした。
わたくしは手早く長い髪をまとめます。
「おにいちゃんは?」
「ま、まだ寝ています。きっと疲れているのでしょう。さあ、入りましょうか。」
正直なところ、わたくしも腰が少し痛いのですが湯浴みをすれば治るでしょう。
二人で浴室へ入ると、パフィは小さな背中を向けて座ります。
わたくしはお湯の温度を確かめてから流し、頭からゆっくり洗ってあげました。
柔らかい巻き毛の綺麗な金髪が羨ましくなります。
頭や髪が済むともちもちした小さな体も洗います。
痛くならないよう優しく丁寧に撫でてあげました。
「はい、パフィ終わりましたよ。」
「ありがとう!今度はパフが洗ってあげるね!」
立場を入れ替えて椅子に座りました。
パフィがわたくしの背中を流してくれます。
「パフもクランみたいに胸が大きくなるかなぁ?」
「たくさん栄養のあるものを食べて運動もして、きちんと生活すれば大きくなりますよ。」
「でもクランはあんまり食べないよね?」
わたくしは逡巡します。
確かに小さな頃からずっと清貧を貫き、普段はパンと豆のスープしか食べていません。
思い当たることが一つ。
「
十二歳で三位巫女神官として
強力な
清貧を信念とする一方で、周りの人や世界の美しさにすら嫉妬をし、ずっと胸の内に秘めてきました。
直視できない黒い感情が膨れ上がり
その反面、強過ぎる力は自制が難しく烈しい情動に囚われたまま神鎧を暴走させてしまう危険も孕みます。
今でこそ彼との情事で発散は出来ていますが、出会う以前はとても苦しかったものです。
そして、五位巫女神官であるパフィーリアの
「クラン。洗い終わったよ!」
パフィの声と躰にかけられるお湯で
「ありがとうございます、パフィ。それでは湯に浸かりましょうか。」
広めの浴槽に足を伸ばして入り、パフィが隣に座ります。
天窓を見上げると透き通るような青空に雲が流れていて、うっすらと二つの月が浮かんでいます。
昨夜は情事に夢中で気づけませんでしたが、きっと星空も綺麗に見えたことでしょう。
「ねぇ、クラン。おにいちゃんとは恋人なんだよね。どうやって知り合ったの?」
パフィが手元で湯をもて遊びながら訊いてきます。
「あの人はわたくしの聖堂で行き倒れていたのです。介抱をして、そのお礼にわたくしの手伝いを申し出てくれました。」
簡単に話しをしたものの、わたくしは
あの人を導いて生涯をともにできるのならどんな苦難も耐えてみせることでしょう。
「ふぅん。もしパフのところに来てたら、パフがおにいちゃんの恋人になれたのかな?」
無邪気な顔で少女は問いました。
「うふふ、そうかもしれませんね。」
目を伏せてなんとなくお茶を濁してしまい、この話題をすぐに打ち切ってしまいました。
――わたくしは内心、危険を察知していたのかもしれません。
パフィがあの人にとても惹かれていることは明らかで、わたくしから彼を奪うようなことにでもなったとしたら。
もしそんなことになってしまったとしたら。
わたくしは――少女に害を加えることに
しばらくの間、わたくしはのぼせた振りをして思いを巡らせ湯浴みを終えます。
髪を乾かして着替えを終えると、すでに彼が朝食の支度をして待っていました。
「ちょうどいい。今、準備が整ったところだ。さあ食べようか。」
優しく微笑む彼に思わず胸が高鳴ってしまいます。
そうしてゆったりとした朝の時間を過ごした後、ヴァリスネリアの演奏が行なわれる聖堂へと向かうことになるのでした。
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