心の迷い
†
わたくし達は持ち場へ移動する前に六位巫女神官のエノテリアと話をするため部屋を出ずにいました。
「エノテリア、この度はよろしくお願いします。一緒に聖務を行なうのは初めてですね。」
彼女に向き直って声をかけます。
「……よろしく、お願いします……」
静かに返されたものの丁寧なお辞儀をしてくれました。
寡黙で普段は誰とも関わろうとしていませんが、とても礼儀正しい方なのでしょう。
顔をベールで隠しているのも理由があると思い、必要以上に追求するのは失礼にあたります。
それに、まずはこれからの戦いについて話さなくてはいけません。
「えっと、わたくし達に任された作戦についてなのですが……」
小首を傾げて訊こうとすると。
「……わたくしのことは気にしないでください。」
淡々と、それだけ返されます。
「え。ですが……」
食い下がるわたくしの肩に彼の手が触れました。
「クラン、俺が話そう――同じ戦線には加わるが、互いに干渉せず各々で敵を駆逐する。それで良いんだろう?」
彼の言葉にエノテリアは黙って頷きます。
続いて、わたくしを見て説明をしてくれました。
「市街地でのゲリラ戦は戦闘状況が常に変化するから、仲間同士での連携も難しいんだ。俺達には
わたくしにはわからない事だらけですが、彼が言うのならそれが正しいのでしょう。
「そういうことでしたら、どうかお気をつけて。また後ほどお会いしましょう。」
一礼をした後、あの人の手を引いて部屋を出ました。
扉を閉めた後、ため息をひとつ吐くとヒツギ様から声がかかります。
「クラン、少し疲れたか?」
わたくしは彼を見上げて答えます。
「いいえ、平気です――ただ、彼女とはなんだか話しづらい感じがして……わたくしがこんなことではいけませんね……」
若干の気落ちをしていると、そっと抱きしめられました。
そして、お互いの目が合うと自然にキスをしてしまいます。
彼の首へ腕を回して、心の迷いをかき消すように長めに。
唇を離した時には気持ちも切り替わっていました。
「さあ、参りましょう。わたくし達の為すべきことを――愚かな異教徒達へ神罰を執行する為に。」
‡
宗教国家北東部の外縁、旧市街地は長年の戦争によって人のいない廃墟になっています。
迷路のように入り組んだ階段状の立地で、土地勘がなければすぐに迷子になってしまうでしょう。
だからこそ防衛の要として機能する場所でもあります。
その旧市街地の中ほどにある聖堂に、わたくしは一人で訪れました。
今は聖務に使われていませんが、内装も綺麗なままに雨風を
ここからは廃墟の街を一望できました。
街の外側、河川に近いあたりで頻繁に爆発や煙が上がっています。
微かに響いてくる銃声や爆発音を聴いていると、不意に眩い光が大通りの広場から発せられます。
十メートルほどの巨大な白い
花弁のような四枚の肩部装甲を持つ人型巨像が降り立っていました。
懐かしくも見慣れた白い
わたくしは静かに黒い
『バルフート』のそばにはあの人がいる。
彼と二人きりになる、またとない機会が今この時でした。
自分の中でまだ心の迷いがあるものの、この想いを昇華させるには会ってきちんと話をしなければなりません。
「あの人を……お願いします。」
黒い
それを見送り、わたくしは踵を返します。
「もう二度と……彼を失わない為に。必ずわたくしが導いてみせます。」
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