慚愧(ざんき)
♢
私は遠い過去の記憶を見ていた。
「――私はこれから先、二位巫女神官としての責務を全うするわけだが、その道のりは決して平坦ではないだろう。」
これは……私が巫女神官に就任した時の記憶なのだろうか。
目の前の幼い少女は十字の紅い瞳で見上げ、口を開く。
「おめでとうございます、二位巫女神官様。貴女なら、きっとどんな苦難も試練も乗り越えていけるものと……わたくしは信じています。」
軽く目を閉じて、その言葉を受け止める。
だが、何故か奇妙な違和感を胸に覚えた。
そして、ゆっくりと目を開くと――
そこには美しく成長し、巫女神官の衣装を着た少女の姿があった。
周りの景色は光に溢れ、もはや真っ白な世界の中に二人しかいないかのようだ。
「クランフェリア、私は聖なる教を支える信徒として、あまりにも愚かだった。あまつさえ罪垢に飲まれて大事な弟子である君すらも手にかけようとしてしまった。」
そっと胸に手を当てると、手のひらは真っ赤な鮮血に濡れていった。
「――しかし、他でもない君の手によって断罪されるのは唯一の救いなのだろう。因果応報……とも云うべきかもしれないがね。」
私の言にクランフェリアは悲しそうな表情をする。
「……いいえ。ヴァリスネリアは巫女神官の名に恥じない、素晴らしいお方です。貴女がいなければ、わたくしはここまで来ることは出来なかったのですから。」
「……私から贈る、最期の言葉だ。君の信仰と信念を貫きたまえ。そして、願いを叶えるのだ。私の命によって儀式はさらに加速する。その先に、この国の未来と君の幸せが訪れることを祈っているよ。」
目尻に熱いものを感じる。
涙など、私は今まで流したことが無かった。
敬虔な信徒から財を集め、私欲にまみれた聖職者の末路に
けれども、もし輪廻があるのならば……次に少女と出会うことがあるのなら、私は彼女のように純粋でいられるだろうか。
やがて、白い光の世界は私の視界を埋め尽くしていった――
▱
あたしは白い不死鳥の
隣にいる、目を閉じて白い巨像の
戦っていた異形の怪物、ヴァリスネリアさんの
天に瞬く星々や二つの月よりも明るく輝くそれは、『魂の解放の儀』の進行を意味していると思われます。
「――っと、とりあえず降りますよ、クランさん。御主人様のことも気になりますし、いったん合流した方がいいでしょう!」
ラクリマリアさんの
別の方角から、新たに近づく
♤
俺は左手で傷を負った腹部を押さえつつ、立ちあがろうとすると誰かに身体を支えられた。
出血はしているものの不思議と致命傷ではなく、血に濡れたロザリオが淡く光って傷も塞がっていく。
「あなた様、すみません。わたくしが遅れていなければ、こんな事にはならなかったのに……」
重ねられた暖かな手と聴き慣れた優しい声。
視界の端に見える禍々しい紋様と十字の印章。
複雑に編み込まれた亜麻色の髪を目にして、彼女が無事だった事に安堵した。
「エノテリア、君のことを心配していたんだ。また会えて本当に良かった。」
声をかけるが、エノテリアは
「
きめ細かくなめらかな肌ではない感触。
彼女自身はびくりと躰を震わせ、俺の目を見た。
――エノテリアは綺麗な顔の左半分に火傷のような痕がついてしまっていた。
「こ、これはその……すみません。見苦しいものをお見せしてしまい……こんな状態であなた様に顔を合わせるなんて……」
今にも泣き出しそうに瞳を潤ませて、視線をさまよわせる少女。
見ているこちらが辛くなるその姿に思わず彼女を抱きしめていた。
「……何も言わなくて良い。生きていてくれただけで、俺は――」
言いようのない想いが溢れて、それ以上は言葉に出来なかった。
しばらくの間、抱き合っていると何やら呼び掛けらしき声が聴こえてくる。
「――あっ!いました、御主人様ぁ!ご無事ですかぁ?」
振り向くと、俺とエノテリアへ駆け寄ってくる三人の少女達の姿が見えたのだった。
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