蚕食

    ☆


 空に大きな模様の浮かんだ宗教国家都市中央部に向かって、ゆっくり神鎧アンヘル『クインベルゼ』と飛んでいく。

 パフは『クインベルゼ』の胎内にいるけれど、他のみんなの力を感じ取ることができた。


 先に到着しているクランやヒルデ達も神鎧アンヘルを顕現しているみたいだけど、そのうちラクリマリアの力が小さくなって、ヴァリスネリアのものは完全に消えて無くなってしまった。


「んぅ?みんな何してるんだろ……もう少し速く飛ばないと間に合わないかなぁ。」


 でも、ヒルデの不死鳥みたいにばひゅーんって飛べないしなぁ……

 パフの神鎧アンヘルはなんていうか、ぷーんって感じ。

 全部の方角を見渡せる視野角があって、のんびり飛べるのは気持ちいいけどねぇ。


 そう考えているうちに見慣れた白い不死鳥の姿が見えてくる。

 どうやら街中に降りるようだから、パフも近くに降下して神鎧アンヘルを召喚回帰させた。


    ▱


 不死鳥の神鎧アンヘル『ベルグバリスタ』を地面に立たせ、あたし達はその背から降りました。

 すると、ちょうど駆け寄ってくるパフィーリアを見つけます。


「ヒルデ、何が起きてるの?おにいちゃんは?」


「あたし達も今から御主人……ヒツギさんのところへ向かうところでした。あまり時間はありません、急ぎましょう!」


 そうして三人で街の大きな広場まで進んでいくと、そこには御主人様とエノテリアさん。

 少し離れてラクリマリアさんが倒れていました。

 どうやら、こちらも決着がついていたようです。


「ヒルデ、それにクランとパフィーリアも。みんな無事でよかった。状況はどうなっているんだ?」


 あたし達を見て話をする御主人様と、何のことか分かっていないパフィーリアにこちらの経緯を説明します。

 異形の神鎧アンヘルは宿主とともに光となって、空に浮かぶ幾何学模様へと還っていったと……


「……そうか、ヴァリスネリアは……関わりこそ多くはないが、残念だったな……」


 神妙な顔をする彼をよそに、ちらちらと倒れ伏した女性が気になります。

 すると、顔を隠すようにフードを深く被るエノテリアさんが淡々と口を開きます。


「ラクリマリアなら心配はいりません。気を失っているだけです。」


 それを聞いてホッとしながらも、突如として立っていられないほどの強い揺れが起こり始めました。


「きゃっ!あ、あなた様っ……!」


 クランさんは御主人様に抱きつき、あたしはその場にへたり込んでしまいます。


「おにいちゃんっ!あれ見て!」


 叫ぶパフィーリアの指差した方向には、数十メートルの巨大な天使型の神鎧アンヘルの姿。

 ちょうど巫女神官の保養施設あたりに立っていると思われますが、その大きさは神鎧お披露目で見た時の比ではありません。

 神鎧アンヘル『ウルスラ』はその両手をかざすと、頭上に大型の光の槍の様なものを創り出します。


「あれは……まずいですね。」


 不穏に光り輝く大槍が何であるのか、無意識に理解していました。

 天使型の神鎧アンヘルは振りかぶって光の槍を投げ放つと、宗教国家都市の南東部を越えた先まで光の束が伸びていきます。

 そして、その先にあるであろう隣国に突き立つと、目もくらむ閃光が広がって十字架のような爆風が起こりました。


「な、何が起きたんだ!?あの光は一体……」


 疑問を口にする御主人様に振り向いて解説をします。


「あの光の槍は生体のみを選別して消し去ってしまう強力な攻撃です。ヴァリスネリアさんの使用していた言語兵器のようなものです!」


 それは巫女神官と神鎧アンヘルへの信仰を持たないものにとって、目にしただけで死を意味する災厄の光でした。

 アルスメリアの目的は、聖なる教と巫女神官達への崇敬に満ちた世界を築くこと。


 もともと彼女の神鎧アンヘルは、その強力な力ゆえに顕現を維持するだけで膨大なエネルギーを必要とします。

 その供給手段として、『魂の解放の儀』を介して無尽蔵に神鎧アンヘルの力を増幅させているのです。


「アルスメリアを止めないと!御主人様、あたし先に行ってます!」


 そうして、再び神鎧アンヘル『ベルグバリスタ』を顕現させ、皆さんの前から飛び立って行くのでした。

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