実相
‡
わたくしはずっと無為な時間を過ごしてきました。
それは至極当然のことでした。
なぜなら、わたくしの愛するあの人が側にいないのですから。
いつだって、わたくしの側に寄り添い微笑みかけてくれるあの人が。
いつだって、わたくしのことを想い優しく気にかけてくれるあの人が。
いつだって、わたくしの躰を求めて抱きしめ熱く満たしてくれるあの人が……
そして、悲しみと憤りに打ちひしがれるのです。
わたくし自身の弱さと無力さに。
以前のわたくしのように『バルフート』を魂の器としていることも。
最初こそ目を疑ったものの、自分自身が特異な存在である自覚はありました。
だからこそ極力、顔を隠し感情を秘めて人との関わりを避けてきたのですから。
けれど、前回の神鎧お披露目であの人の姿を見た時は気持ちが大きく揺らぎました。
大聖堂の宗教画の前で彼に触れられた時、どれほど嬉しかったことか。
わたくしのもとに戻って来てくれたのかと、そう期待してしまうほどに。
しかし、それはわたくしの思い違いでした。
あの人は記憶を失っていて、すでにもう一人のわたくしと親密な関係になっていたのです。
――どうしてこんなことになってしまったのでしょうか。
そう、呟かずにはいられませんでした。
行き場のない怒りとともに、わたくしは機会を待つことにしました。
きっと二人きりになれる時がくる。
そして、わたくしの肌に触れれば必ず彼は思い出してくれるはずだと。
……わたくしとあの人は幾夜も躰を重ねて熱い夜を過ごしてきたのですから――
それでも、悲願の成就を前にやはり邪魔をされてしまいました。
――きちんと向き合わなければなりません。
白い巨像の
わたくしは
「クランフェリア。
†
その顔はわたくしと全く同じで瞳の色だけが吸い込まれそうな深い蒼色です。
なぜ彼女は自分と同じ容姿をしているのか、理解が出来ずに戸惑ってしまいます。
「エノテリア……?なぜわたくしと同じ姿をしているのですか……?あなたは一体……」
『バルフート』はそっとわたくしを降ろしてくれると、エノテリアはゆっくりした足取りで近づいてきます。
「わたくしの本当の名前はクランフェリア。十年前に
彼女は理解に苦しむことを口にしました。
「も、もう一人のわたくし……?
エノテリアはわたくしと一定の距離を保って、ゆったり歩き回ります。
「この際、どちらが本物であるかに意味はありません。わたくし達はともに同一であり、偉大なる主の存在の恩寵に
わたくしは言い知れぬ不安にかられながら話しをします。
「つまり……あなたは違う世界からきたわたくし、ということでしょうか……?でも……一体なぜそんなことに……」
エノテリアは立ち止まって、言葉を続けました。
「わたくしの愛する彼が命を落として、この世界へと
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