想いの光

    ♤


 崩壊した地下礼拝堂に剣戟けんげきが響き渡る。


 俺は黒い神鎧アンヘル『ザルクシュトラール』と大剣を打ち合って火花を散らしていた。

 単純な膂力りょりょくではかなわない。

 だが、相手が俺の動きをしているのなら、も行動の予測が出来た。


 俺ならどうやって攻撃をさばき、どのように反撃するのか。

 それを意識するだけでよかった。


 とはいえ、拮抗した闘いになるのなら最終的に武を分かつのは膂力りょりょくの差となる。

 案の定、黒い神鎧アンヘルは力に任せての圧倒する攻めに転じてきた。

 攻撃の筋はわかる。

 だが、どうしても防戦にならざるを得ない。


 ひたすらに『ザルクシュトラール』の斬撃を受け流すように『布都御魂ふつのみたま』を打ち重ねる。


 一際大振りの強力な一撃をかろうじて受けると、黒い神鎧アンヘルの大剣が足元の床を粉砕しながら突き立つ。

 その隙をついて、強引に身体を動かして『ザルクシュトラール』の腹部へと渾身の掌底を叩き込んだ。

 奴は大きく体勢を崩して大剣を手放した。


 ――今しかない!


 俺が黒い神鎧アンヘルに一矢を報いるのは正にこの時だった。

 大剣『布都御魂ふつのみたま』ので『ザルクシュトラール』の頭部を強打した。

 その衝撃で奴の頭部は一部が破損して、その内部が露わになった。


 ――そこにあったのは……



 もう一つの俺自身の顔だった――

 俺は戸惑って呆然としてしまった。


『ザルクシュトラール』はゆっくりと体勢を立て直すと、静かにを開いた。


「大したものだ。これだけの力の差がありながら、俺に一撃を与えたのだからな。」


 俺と同じ声色で言葉を発する黒い神鎧アンヘル

 当然それすらも驚きを隠せない。


「やはりお前も俺のように神鎧アンヘルの力をその身に宿しているだけのことはある。」


 神鎧アンヘルの力。

 ヒルドアリアと初めて会った時と同じことを言われた。


「どういうことだ?俺に神鎧アンヘルの力……この大剣『布都御魂ふつのみたま』のことか?」


『ザルクシュトラール』は光の宿らぬ瞳を向ける。


「まだわかっていないようだなヒツギ、もう一人の俺――が、クランフェリアの神鎧アンヘルだということを。」


 その時、突如として眩い光が降り注ぎ、地下礼拝堂を飲み込んでいった。


    †


「あの人が――ヒツギ様がわたくしの神鎧アンヘル……!?」


 エノテリアはとても信じられないことを告げていました。

 彼女は言葉を続けます。


「……とはいえ、完全なる神鎧アンヘルではありません。その力は半分ほどでしょうか。わたくしとあなた、どちらの神鎧アンヘルであるかも分かりません。」


 ゆっくりと手をかざして、彼女は言いました。


「わたくしの目的はただ一つ。あの人と――ヒツギ様と再び結ばれて、以前のようにともに生きていくこと。」


 その蒼い瞳には強い想いのような光が宿っていました。


「そのためには、あなたの存在が邪魔になるのです。ですが、あなたはもう一人のわたくし。同じ姿をしたあなたを亡き者にすることなどしたくはありません。」


 エノテリアは一瞬だけ目を閉じた後、わたくしに言い放ちます。


「クランフェリア。もう一人のわたくし。どうかあの人を――ヒツギ様をいただけないでしょうか?」


 わたくしは耳を疑ってしまう言葉を聴き、めまいがしてきました。

 わたくしの中の罪垢ざいくが急激に溢れてくるのを感じます。


 それに呼応して神鎧アンヘル『バルフート』の鎧装に覆われた素体部が紅く強く発光します。

 全ての武装が即座に使用可能な状態に展開されました。


 目の前に佇む、わたくしの姿をした少女は微動だにしません。

 わたくしの中の黒い感情が囁きます。



 ――コロシテシマエ


 ――アノヒトヲ、ウバウモノスベテヲ



 両手を握りしめて、噴き出る感情を抑え込みました。



「――あの人は渡せません……わたくしは彼を――ヒツギ様を愛しているのですから!」



 その時、わたくしの懐にあるロザリオが眩い光を発しました。

 それを取り出すと、光はさらに大きく辺りを照らします。


 その光はやがて一帯を包み込み……わたくしの視界と意識は白く途絶えたのでした――

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