光の中で

    ‡


 真っ白な光に包まれていました。



 ……あの時もそうでした。


 わたくしの膝の上で静かに目を閉じるあの人。


 小さく可憐な十字の花畑の世界で、最も愛する人との別れ。


 決してあってはならない残酷な運命。



 なぜ。


 なぜ、しゅはこのような仕打ちをするのでしょうか。


 わたくしと彼はずっと一緒だと誓い合ったばかりなのに。


 これも、わたくしに課せられた試練だとおっしゃるのですか。



 ――わたくしは祈りました。


 祈り、歌いました。


 悲しみと憤りに濡れた、彼に捧ぐ鎮魂歌レクイエムを。


 空には瞳に収まりきらない満天の星空。


 その中に浮かぶ巨大な幾何学模様。


 ――神鎧アンヘルの、『魂の解放の儀』。



『バルフート』。


 わたくしの神鎧アンヘル


 どうか、わたくしの願いを。


 主の御前へと届けてください――


 再び、愛する彼と出会う運命を!



 その瞬間、わたくしの神鎧アンヘル『バルフート』は眩い光の柱となりました。


 その光はわたくしと彼を包んで、真っ直ぐに空に浮かぶ巨大な幾何学模様へと伸びていき。



 わたくし達の魂は次元を超越しました――


    †


 光の中を泡沫ほうまつのようにただよっていました。



 ありとあらゆる、様々な記憶の中をゆらゆらと彷徨さまようように。


 そして、ある記憶に辿り着きます。



 ――それは、わたくしの母の記憶でした。


 まだ小さな赤子のわたくしを優しく抱いて見つめている母。


 その慈愛に満ちた紅い瞳には、何かを悟ったかのようなうれいを秘めています。


 母はゆっくりと、わたくしに語りかけてきます。


「わたくしの愛する子。あの人との愛の結晶。あなたはわたくしに残された希望の光。」


 その言葉は少しずつ震えていき、瞳は潤んでいました。


「いつか……いつかきっと。あの人がわたくしを見つけられるように。あなたの名前を――クランフェリアと名付けます。」


 母は涙ながらに言葉を紡ぎます。


「嗚呼。わたくしはきっと、あなたが成長する姿を見届けることはできないでしょう。愛するあの人と再会することも……」


 わたくしは母と話しをしたくて言葉を出そうとしますが、赤子の泣き声としかなりません。


「クランフェリア。あの人は――ヒツギ様は必ずあなたのもとへと転生を果たします。わたくしの神鎧アンヘルの力を持って、あなたの力が最も宿る場所に。」


 母はわたくしを優しく抱きしめて頬を擦ります。


「どうか……わたくしの代わりにあの人を導いてあげてくださいね。」



 わたくしは、暖かくも切ない想いに包まれながら、眠りに落ちていきました。


    ♤


 俺は光の中に一人、佇んでいる。



 上も下も分からないが、確かに地に足をつけていた。


 周りを見渡しても、ただただ果てしなく白い世界が広がっている。


 今まで、クランやヒルデ、パフィーリアやエノテリアと繋がった時とはどこか違う、記憶の世界。



 ふと、歩き出そうとすると目の前に闇が生まれた。


 それはとても小さな――いや、少しずつ大きくなり、は人の形を成した。


 黒い神鎧アンヘル『ザルクシュトラール』。


 俺は、もう一人の自分と向かい合った。


「『ザルクシュトラール』、なぜ俺の姿をしているんだ。それに、俺がクランの神鎧アンヘルだというのは一体どういうことなんだ。」


 黒い神鎧アンヘルは静かに答える。


「……お前は見ただろう。彼女の――エノテリアの記憶を。己の死の体験を。俺は死を迎える前のお前であり、エノテリアの魂の器でもあり、想いの形が具現されたものだ。そして、お前もまた……今のクランフェリア、その母やエノテリアのが形となって転生し、受肉をした。」


『ザルクシュトラール』が右手をかざすと、彼女達の記憶の奔流が俺の中に流れ込んでくる。


 それを眼を見開いて受け止めていく。


「クランフェリアと、その母親……違う世界で俺と一緒にいた少女が、クランの母親だというのか?いや、待て。それなら今のエノテリアは……!?」


 もう一人の俺は黙ったまま、口を開かない。


「『ザルクシュトラール』、答えてくれ。俺は何をすれば良い?神鎧アンヘルであり、人でもある俺に何をさせようとしているんだ!?」


 黒い神鎧アンヘル諦念ていねんに似た表情を見せて告げた。


「ヒツギ――もう一人の俺。お前は選ばなくてはならない。魂の伴侶となるものを。器たるもの、多くを連れ立つことはできない。クランフェリアやエノテリアだけではない。ヒルドアリアやパフィーリア達の魂、業の深さはお前が思うよりも軽くはないぞ。」

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