伝承
▱
それは遥か昔。
とても遠い昔の話です。
今からおよそ千年ほど前の物語。
ある国の王様が一つの疑問を持ちました。
――この世界に神様はいるのだろうか、と。
王様は考えます。
輝く威光を示す陽の昼も、静かに地を見守る月の夜も。
けれど、答えは一向に見つかりませんでした。
ある時、王様は家来に一つの命令を言いつけました。
――『一人の赤ん坊に神の教えを叩き込むのだ。』
産まれたばかりの赤子を神殿の奥へと幽閉して。
神を語る
やがて、赤子は神に
王様は待ちかねた疑問の答えを問いかけます。
――『神は存在するのか?』と。
……答えはすぐ出ました。
神様漬けにされた元赤子は、こう答えました。
――『
そう告げた元赤子は同時に
それは十メートルほどの巨大な人型。
真っ赤な十二枚の羽根と鎧装を全身に纏った白い天使の巨像。
――
王様は元赤子をすぐさま追放します。
本当は処刑をするはずでしたが、叶いませんでした。
白い天使の巨像は天に向かって
それは、この地――天蓋に覆われた世界のあらゆる全てより強力な光の
王様の国を逃れた元赤子は、隣に一つの国を作りました。
彼女の
俗人に軽々しく呼ばれないよう、彼女自身がつけた長い長い神様の名前を。
そして、
――それから、彼女の周囲には
‡
わたくしは黒い
この闘いにはこちらに分がありました。
わたくし自身は影による移動で安全な場所に避難しつつ、『ザルク』に
とはいえ、『ウルスラ』の力も全て把握しているわけではないので油断は禁物です。
あらゆる神力を遮断出来るわたくしの力を赤い髪の少女も理解していることでしょう。
わたくしは影の中に隠れて、聖堂の物陰に移動します。
それと同時に『ザルク』は黒い大剣を手に、超人離れの動きでアルスメリアへと突撃しました。
『ウルスラ』もまた彼女をかばうように両手を広げて、十字架の防壁を展開します。
それを大剣の一振りで斬り裂いて無力化させ、二十数メートルの天使型の
右手を払って打ち落とそうとする『ウルスラ』に合わせて、『ザルク』は渾身の
白い天使の右手は鎧装ごと破壊され、その巨体を傾けて。
アルスメリアは血の
「妾の右腕をよくも……だが、これならどうだ。」
『ウルスラ』は背中の十二枚の赤い羽根を広げると、舞い散る羽毛を槍のごとく『ザルク』へと飛ばしてきました。
瞬時に硬質化して襲いかかる無数のそれを、球体状の防御壁で弾きながら着地します。
そこへ次々と赤い槍は周囲に突き刺さり、針の山のような光景となりました。
わたくしは闘う黒い
今のわたくしの心中に渦巻く思いの正体に。
それは悟り――いえ、ある種の殉教者の心持ちのようなものでした。
わたくしの心と躰を満たしてくれたヒツギ様に対する想いを胸にして。
この世界の
……その結果、わたくしの愛した
「たとえ刺し違えてでも、あなたを討たなければならないのです!」
そして、大剣を構えて空高く飛び上がった『ザルク』は、『ウルスラ』へと向かって真っ直ぐに落ちていき――
「愚かなっ!妾の威光の
アルスメリアの叫びとともに『ウルスラ』は左手を
わたくしの黒い
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