聖餐

    ♤


 神鎧お披露目の後、クランは神鎧アンヘル『バルフート』に聖餐せいさんで使うパンと葡萄ぶどう酒を運ばせていた。


「あなた様、お披露目はいかがでしたか?」


「荘厳で素晴らしいものだった。クランにも改めて惚れ直したよ。」


「あ、ありがとうございます……!」


 照れて俯く彼女はやはり可愛かった。

 俺はクランと手分けをしてパンや葡萄酒を配り続けた。


 信者達は老若男女様々だが、若い男達は当然のようにクランに群がった。

 清楚で可憐、小柄ながらに大きな胸を持つ少女は、わかりやすいほど男を惹きつけている。

 心配ではあるが彼女の補佐官である以上、俺もきちんと仕事をこなさないといけない。


 気を取り直して聖別されたものを配っていると信者に見知った顔を散見する。

 お披露目を見るためにクランフェリアの管轄する南東部の街から中央部都市まで来ているのだろう、挨拶をしてねぎらった。


 心なしか子供から老人にいたっても女性ばかりに手渡している気がする。

 クランほど忙しくないため、集まる女性達と談笑を交えて配っていると、不意にクランと目が合った。

 彼女はちらちらとこちらの様子を見ている。


 俺の仕事ぶりが気になるのだろうか、心なしか神鎧アンヘル『バルフート』も俺の方を見ている気がした。

 女性達に断りを入れて、クランに近づき二人で配ることにした。


「三位巫女神官様、俺もこちらを手伝います。」


「ありがとうございます、助かります。」


 言動に注意を払いつつ大きめに声を掛けると、どこかほっとした表情になるクラン。

 公然の場で巫女神官である彼女に言い寄る若い男達はまさかいないとは思うが、クランに近しく話す俺へ好奇と嫉妬の目が向けられる。


 粛々と応対して丁寧に誘導していると、そういった視線もすぐに薄れていった。

 きっと他の巫女神官達の下にも、あの類いは多いだろうことは容易に想像できた。

 ある程度、聖餐せいさんが落ち着いたところで息をつく。


「パンや葡萄酒を配るだけとはいえ、これだけ信者が多いと大変だな。いつもクラン一人でこなしてるのか?」


「今までは他の巫女神官の補佐官方に手伝っていただいて、それでも今回ほど多くはなかったです。おそらくこの前の生誕祭での一件もあって主や神鎧アンヘルの恩寵を求める方が増えたのでしょう。」


 大きな災害や事件があると神頼みしたくなる心情は俺にもわかる気がした。


「あなた様、お疲れ様です。先ほども助かりました。」


「俺の方こそクランが大変だというのに気づかなくてごめんな。」


「い、いえ。それほどではないです。ただ、あなた様が他の女性と話しをしてたのが気になっただけでその……」


 顔を赤くして俯いてしまうクラン。

 もしかして嫉妬してくれたのだろうか。

 もじもじする彼女はとても可愛らしかった。


 そして神鎧アンヘルへの祈りを捧げて信者達は帰路に着く。

 俺とクランは後片付けをしながら話をする。


「この後、わたくしは他の巫女神官方と身を浄めるための湯浴みに行きます。その間、あなた様は自由にしてかまいません。管理施設のわたくしの部屋で寛いだり、大聖堂を見学するのも良いでしょう。」


「そうだな。いろいろ見て回らせてもらうよ。」


 神鎧アンヘルを召喚回帰させたクランと並び歩いて大聖堂前へ着くと、ちょうど他の巫女神官達も集まったようだ。

 俺は一歩後ろに引き、直立で控えて様子をみる。


「あっ!クラン、おつかれさま!また信者さんがいっぱい増えて、パフつかれたよお。」


 最年少の少女、パフィーリアがクランの前へやってきて話しをする。


「うふふ、パフィは可愛いですからね。湯浴みでゆっくり疲れを癒やしましょう。」


 やがて談笑もそこそこに移動を始める彼女達。


「それでは行って参ります、あなた様。」


 クランははにかみながら小さく手を振ってくれた。

 俺は彼女に手を振り返して見送り、大聖堂を見学して回ることにした――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る