鉢合せ
×
わたしは管轄している南部都市、夜を迎える歓楽街を一人で歩いていた。
派手に彩られた光は消えることなく、むしろその輝きは増していく。
この街はこれからが本番なのだ。
「あら、貴女達。どうしてこんなところにいるのかしら。」
そこにいたのは、わたしと同じ巫女神官のヒルドアリアとクランの補佐官であるヒツギの二人だった。
ヒルドアリアは彼の腕に組みついていた。
「ラクリマリアさんこそ、なんでここに?」
彼女はさも不思議そうな顔をしている。
「南部都市はわたしの管轄だもの。この街にわたしがいるのは当たり前よ。それより貴女達こそ二人きりで……クランはどうしたの?」
「今日はヒツギさんと一緒にこの街へ遊びに来たんです。クランさんにもちゃんとお願いしてからきました!」
ヒルドアリアは胸の前に両手を
わたしは
それと同時に、
けれど、ヒツギはもちろん、ヒルドアリアにもその場しのぎのような心の乱れや焦りは
特別な関係を示す記憶すらなかった。
「――はぁ、まあいいわ。それで、この後はどうするの?街に泊まるわけではないのでしょう?」
「夕食を店で食べてから蒸気自動車で南東部に帰って、ヒルドアリアはクランの母屋に泊まる予定だ。南部の歓楽街から南東部には一時間ほどだが、北西部には六時間以上かかってしまうからな。」
わたしは変に詮索するのをやめにした。
いつまでも執着するほど粘着質でもないのだ。
「食事をしたいのなら、いいお店を知っているわよ。わたしも一緒で良ければ紹介するわ。どう?」
気分を変えて、明るく提案してみた。
「それはありがたいんだが……ヒルドアリアは大丈夫か?」
「あたしは全然かまいませんよ!」
「決まりね。それじゃ、案内するわ。こっちよ。」
言ってから
たまには変わった
♤
俺達はラクリマリアの後ろについて歩き、昼間のように明るい歓楽街を横目に進む。
道行く人々もまた、特別な関係であろう男女ばかりだ。
そして、一様にしてホテルや風呂屋へとその姿を消して行く。
おそらくは道を一つ外れれば
「なんだか、お昼の時とは雰囲気が違いますねぇ。」
ヒルデは俺の腕に抱きつきながら周りを観察していた。
「それはそうよ。昼は観光やリゾート、夜は快楽とともに一夜の夢を結ぶ、それが南部都市の歓楽街なの。貴女の北西部にも似たような場所はあるでしょう?」
ラクリマリアは優雅に歩み、振り向かずに答える。
「あたしは普段、聖務以外に神社敷地から外に出て、街を見回ることがありませんからねぇ。温泉街には
――彼女の薦める店は格式の高そうなレストランだった。
店内には貴族のように着飾った客ばかりで、店の案内人はラクリマリアの姿を見るなり、さも当然のように店の一番奥へと促した。
「そんなに硬くならなくてもいいわ。この場所はわたしだけのサロンのようなものだもの。」
悠然として席に座り笑いかけるラクリマリア。
通された部屋の中には俺達三人しかいない。
それでも、目に見えて豪奢な雰囲気に気後れを感じざるをえない。
ヒルドアリアも同じ思いなのか、丸く大きなテーブルを囲みつつも少しばかり俺の近くに席を寄せていた。
「あたしは四位巫女神官ですよっ!これくらいは何とも思っていませんっ!」
十四歳の年相応に膨らんだ胸を張るヒルデ。
虚勢を張っているわけではないのだろうが、少女のその様子が微笑ましく見えてしまう。
おかげで程よく緊張も解けたのだった――
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