第四話 静寂に戯れし対旋律
東部都市へ
♢
時を告げる鐘の音こそ民衆を支配する音である。
秤に乗せる金の音こそ楽園への扉を叩く音である。
それらあらゆるものを手にすることこそ私の罪であり免罪符なのだ。
♤
宗教国家都市、その中央部の大聖堂を中心として七芒星の頂点にそれぞれ七つの聖堂がある。
そのうちの一つである東部地区は歴史を感じる建築物が多く建ち並び、どこか郷愁的な空気が街並みに漂っていた。
中でも一際目立つ場所に二位巫女神官であるヴァリスネリアの聖堂はあった。
俺とクランフェリアは彼女の要請を受けて、朝からとある儀式の手伝いに訪れていた。
「ヴァリスネリアが神学校の教職者である話は覚えていますか?実はわたくしも神学校時代でお世話になっていた一人でもあるんです。」
儀式とは彼女の聖堂で執り行われる結婚式の事だった。
準備をしながらクランの話を聞く。
「わたくしは八歳の頃に孤児院を出て神学校へ通いました。その時は彼女も同じ生徒だったのですが、同時に予備教員として教鞭を振る事がありました。」
「それだけ優秀だったってことか?」
彼女は頷きながら付け加える。
「当時は戦争が終わって間もなかったので、人手不足というのもありました。」
記憶のない俺にはその様子を想像するのも難しいが、復興と合わせて大変な時期だったのだろう。
「わたくしは彼女から神学を学んだのですが、巫女神官として本格的に活動してからはご一緒する機会も減ってしまったのです。」
少し残念そうな表情になるクラン。
「とはいえ、今は七ヶ月に一度は神鎧お披露目で顔を合わせますし、たまにこうして手伝いもしますので、そこまで疎遠になったわけではありません。」
すぐに普段の調子に戻り安心して息をつく。
巫女神官とは聖なる教のシスターの中でも最上位の存在だ。
祭事や儀式を執り行い、
巫女神官は七人いて、それぞれ七つの神鎧を召喚できる。
ちなみにクランは三位巫女神官で、俺はその補佐官ということになっている。
――と、そこで元気な足音が聞こえてきた。
振り向くとそこには金髪でふわふわした巻毛の少女がこちらに駆け寄ってくる。
五位巫女神官のパフィーリアだった。
「やっぱり!クランとヒツギおにいちゃんだ!」
彼女は嬉しそうに俺達を見やり可愛らしい笑顔になる。
「くひひ、二人ともいつも一緒だね。仲良しで羨ましいなぁ。」
「もう、パフィったらからかわないで。」
「パフィーリアも来ていたんだな、何を手伝っていたんだ?」
「パフは刺繍とか飾りつけが得意なんだよ!あとお花もたくさん持ってきたの!」
言われてみれば彼女は彩鮮やかな花束を抱えていた。
「綺麗だな。それにすごく良い匂いがする。」
「そうでしょ?パフの庭園から一番好きなお花を持ってきたんだよ!みて、これ!」
花束から真っ白な大輪の花を指し示すパフィーリア。
花弁がとても大きく甘い香りを放ち存在感がある。
「今回はどんなブーケにするの?」
クランが目線を合わせるように屈んで優しく訊く。
「キャスケードにしようかなって。ここの聖堂は大きいから、よく目立つようにしないとね!」
俺にはよくわからないが、花束の作り方にも色んな種類があるらしい。
楽しそうに会話をするパフィーリアとクランは微笑ましく、本当の姉妹のように思えた。
と、そこでこちらに近づいてくるシスターの姿があった。
左肩に巫女神官のシンボルらしき刻印がある服装からしてパフィーリアの補佐官だろうか。
それに気づいたクランが少女に告げる。
「今はあまり時間がないから、また後でお話ししましょう。パフィ。」
「うん、約束だよ!おにいちゃんもね!」
「ああ、勿論だ。約束する。」
そうして俺達は再び儀式の準備に戻っていった――
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