つがい
▱
あたしと御主人様はクランフェリアさんを見送ると、改めて居間に座り直してお茶を続ける。
「このお茶美味しいですね!あたしの普段飲むものとは違って新鮮です!」
「これはクランが家庭菜園で育てた香草のお茶だ。身体がリラックスできる効果があるようだ。」
雑談を交えつつ、本題を切り出します。
「御主人様、いただいた書簡のことなんですけど……」
「ああ、この前の事で改めて礼を言おうと思ってな。」
二人きりで話というのはつまり、クランさんがいるとあたしが気を使うと思ってのことか。
そしてこの前の事とは以前、あたしと同じシスターで五位巫女神官であるパフィーリアの
あの時はクランさんとあたし、そして御主人様が三人がかりでやっと止める事が出来た。
街の被害は大きくなってしまったけれど、何より神官仲間のパフィーリアへのダメージを最小限に出来たのは他ならぬ御主人様のお陰だった。
あたしたち巫女神官だけで対応していたら、パフィーリアは命を落としていたかもしれない。
「あたしは何も……御主人様の力あってこそ事なきを得られたのですからして……」
「――それでもやっぱりヒルドアリアのサポートが無ければ、あそこまで上手くはいかなかっただろう。本当にありがとう。」
相性的にパフィーリアの
「身体は何も問題ないのか?」
御主人様が心配してくれます。
先の戦いであたしは、パフィーリアに身体を
それはもちろん致命傷で、普通の人なら助かりません。
けれど、あたしは焔を纏って即座に
「この通り元気です!お見せするのは初めてですが、あたしが不死であることをご理解いただけたかと思います。」
浮かない顔のままで御主人様が話します。
「それなら良いんだが、あの時は君にかなりの無茶をさせてしまった。それがずっと気がかりでな。」
「気になさらないでください。あたしは今でも傷ひとつ残らず、御主人様とこうしてお話してるんですから!」
転生後に傷をつけた(もちろん綺麗に傷痕は消えている)腕を見せたり、身振り手振りの仕草で明るく振る舞ってみせます。
そんなあたしを見て、頭を掻きながら苦笑する御主人様。
「それでお詫びというか、きちんと礼をしたいんだが俺に出来ることはないか?何でも構わないから言ってほしい。」
「な、なんでも……」
ゴクリと唾を飲む。
あたしが御主人様にしてほしいことはただ一つ。
それは
あたしと一緒に神殿へ帰って、怠惰に子を作るための行為をしてほしい。
それが不死に加えたもう一つのあたしの魂に刻まれた業であり、
「――そういえばなんだか躰が凝っている気がするので、マッサージとか揉みほぐししてほしいかなぁ?」
全くもって健康体そのものですが、目を泳がせながらふんわりしたお願いをしてみた。
さすがにえっちしてみたいと直球で言うのは、はしたないというか巫女神官としてどうかなと思います、うん。
「わかった、それなら俺の部屋へ行こうか。」
よし、あとはどうにでもなります!
あたしたちは立ち上がり、朝食の後片付けをしてから移動した。
御主人様に招かれ部屋の中へ入ります。
必要最低限の家具だけの質素で綺麗に整った部屋でした。
本棚には歴史や宗教、哲学的なものなど様々な本が並んでいます。
補佐官は普段、仕える巫女神官に付きっきりなので休日に読み耽っているのでしょう、読みかけのものが机の上に置いてありました。
どうやら今は
ついつい眺めていると御主人様が訊いてきます。
「ヒルドアリアは普段どんな本を読むんだ?」
「えぇと、あたしも御主人様と似たようなものかもしれません。戦術書や哲学書、あとは
「
「歴史と創作を合わせたものといいますか、民族の英雄や神話など後世に語り継ぐための物語です。」
「民謡や聖書みたいなやつのことか?」
「その通りです。でも他の人にはあんまり言わない方がいいですよ。あたしは宗教観が違いますから気にしませんけど、割と繊細なことですから。」
「そうだな。今後は気をつけるよ。」
「あたし、御主人様のそういうはっきりしていて素直なところ、大好きです。えへへ。」
あたしは部屋の窓際にあるベッドへ座るとあることを思い出しました。
「――あ!そういえば、聴いてください。さっき本の話をして思い出したんですが。あたし、神殿にある文献で御主人様の大剣について調べてみたんです!」
御主人様は少し驚いたようで、隣に座って興味津々に訊いてきます。
「何か分かったのか?」
口元に指を当てながら頭の中から文献の内容を引き出しました。
「たしか
「フツノミタマ、か。」
神話に登場する剣なので実際に同じものなのかは定かではありません。
でも、パフィーリアの
加えて、あたしやパフィーリアと精神を共有したり浄化するだけの能力を備えているとなると、神話の宝剣に近い物ではと思ってしまいます。
その旨を踏まえて伝えると。
「何か記憶が戻りそうな気がするが、あと少し何かが足りない――しかし、教えてくれてありがとう、ヒルドアリア。」
そう言って、あたしの頭を撫でてくれます。
てへへ。
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