巫女神官
†
大聖堂にはすでに何名かの巫女神官がそれぞれの補佐官とともに待機していました。
わたくしは彼を連れて輪の中へ混じります。
「あっ!クランだ、おはよう!」
小さな女の子がわたくしに気づき、駆け寄ってきます。
「お待たせしました。おはようございます、パフィ。」
パフィーリアは最年少のシスターで、十歳でありながら序列五位を冠する巫女神官でもあります。
子供らしさの中にも気品を感じさせるふんわりとした修道服を着こなし、少女のふわふわの金髪がよく映えます。
くりくりとした大きな目は金色で花型の瞳孔が印象的です。
「あら、今日はのんびりと来たのね。そちらの殿方は?」
ゆったりしたドレスのような修道服を着た女性が声をかけてきます。
わたくしより四つ年上の七位を冠する巫女神官、ラクリマリアです。
肩ほどの青みがかった緩やかな波のような銀髪、優雅に歩み寄る仕草と涼やかな翠の瞳はまるで美術的な作品のようでした。
「おはようございます、ラクリマ。この方はわたくしの補佐官のヒツギ様です。」
彼女は彼に向き合います。
「わたしはラクリマリア。シスターで七位巫女神官よ。よろしくね。」
彼はラクリマの目を見て話します。
「ヒツギだ。三位巫女神官様の補佐官を任されている。こちらこそよろしく頼む。」
「それにしても、あなたが補佐官を立てるなんてね。」
わたくしと彼を交互に見やり意味深長に言います。
「わたくし一人では出来ることに限りがありますし、男手があるととても助かるのですよ。」
「ふぅん、そうかもしれないわね。」
彼女は見定めるように彼を見ています。
「五位巫女神官のパフィーリアだよ、よろしくね!おにいちゃん!」
「可愛い名前だな、俺はヒツギという。こちらこそよろしくな。」
彼はパフィの肩に軽く触れて目線を合わせて会話をしています。
「くひひ、ありがとう!」
無邪気な笑顔を見せるパフィです。
「ねぇ、ヒツギ。わたし達は三人一緒にいる時はよくお茶会をするのだけど、あなたも参加してみない?きっと楽しめると思うわ。」
ラクリマが彼を誘います。
「クランが……いや三位巫女神官様が参加するなら、もちろん俺もついていくが……」
「そんなに固くならなくてもいいわ。わたしのことも肩書きではなくて名前で呼んでかまわないし、お互い楽でしょう?」
「パフもおにいちゃんに名前で呼んでほしいな。」
ヒツギ様はわたくしに助けを求めるように顔を向けるので、微笑んで頷いてみせます。
「わかった。改めてよろしくな。ラクリマリア、パフィーリア。」
和やかな空気になり始めた時、大聖堂の扉が開かれました。
中に入ってきた少女はわたくし達とは大きく異なった趣の修道服を着ています。
白を基調とした装束に短めの朱いスカート、ニーハイの靴下と彩り鮮やかな刺繍の入ったストールを纏った、わたくしより少し背の高い二つお下げの紫髪の少女。
シスターで四位巫女神官のヒルドアリアです。
凛とした動作で音もなく大聖堂を進んできます。
傍らには基本的な修道服を着た真面目そうなシスターの補佐官。
彼女はわたくし達の前で立ち止まると丁寧にお辞儀をします。
「おはようございます。皆さん今日はよろしくお願い申し上げます。」
そしてあの人に目を向けて、じっと見つめ続けます。
無言の視線に彼は困惑していました。
「わたくしの補佐官のヒツギ様です。彼女は四位巫女神官のヒルドアリアです。」
「えっと……よろしくな。」
彼は少しほっとした顔をして、わたくしを見ました。
「そうですか、ヒツギさん。あたしと同じ体質を感じたものですから……失礼しました。」
その言葉に彼は反応しました。
「それは一体どういう――ああ、いや何でもない。」
巫女神官が集まる中で不用意な言動を控えたのでしょう、わたくしの傍に来てくれます。
「――全員、集まったようだな。」
大聖堂に響くほどの良く通る声。
その場にいた者達は一様に振り向きます。
視線の先には二人のシスターが教壇に並んでいました。
豪華な修道服に身を包んだ背丈が百八十はある長身
「七人全員?」
彼が首をかしげます。
「あ、エノテラ!いつの間にそこにいたの?」
パフィーリアが大聖堂の端の長椅子に静かに座っていた六位巫女神官、エノテリアを見つけて駆け寄りました。
背丈はわたくしと同じくらいで神官用のケープコートを羽織り、フードを深く被って俯き気味にこちらの様子を見ていました。
パフィーリアは笑顔で彼女の隣に座ります。
とても寡黙な方でわたくしはもちろん、他の方ともほとんど話しをすることがありません。
筆頭巫女神官のアルスメリアが凛とした声を発します。
「これより我らが聖なる教でもっとも重要である神鎧お披露目が執り行なわれる。気を引き締めて掛かろうではないか!」
彼女の号令で巫女神官達は一斉に動き出します。
わたくしも準備に取り掛からなくてはなりませんが、その前にわずかな時間でヒツギ様に伝えることがありました。
そばにいる彼の袖を引いて背伸びをし、小声で耳打ちします。
「あなた様、これをどうぞ。わたくし達、巫女神官全員の簡単な説明書きです。」
手元でこっそりとメモ紙を手渡しました。
「ん、ありがとう。クラン、助かる!」
彼もわたくしに合わせて小声で会話します。
「今は他の補佐官の方とともに、壇の傍らで儀式を見学して頂ければ大丈夫です……!」
「……わかった!しっかりとクランのことを見守っている。」
そう言って手を握られ、わたくしは自分の顔が上気するのを感じて俯いてしまいました。
「クラン、どうしたの?はやく行こうよ!」
パフィに声をかけられて我に返ります。
「そうですね、参りましょうか。あなた様、また後ほど。」
そうして、わたくし達はそれぞれの舞台へ歩いていきました。
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