入浴施設にて

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 わたしは先日の神鎧お披露目での疲れを癒すために中央部都市にある巫女神官専用の保養施設に宿泊していた。


 昼過ぎまでサロンでお茶会をして過ごしていたが気分を変えようと専用浴場へと向かっている。

 隣には同じシスターで五位巫女神官のパフィーリアが並び歩く。


「洗いっこしようね、ラクリマ!」


 子供らしいキラキラした笑顔だ。


「ええ、もちろんいいわよ。」


 裏表のない純粋さは美徳であり大切にしてほしいと思う。


 保養施設のエントランスに来ると向かい側から二人組の男女が肩を並べて歩いてきた。

 考えるまでもなく先程会った三位巫女神官のクランフェリアとその補佐官のヒツギだ。


「あら。クランフェリア、もう視察は済んだの?仲良く恋人繋ぎなんてしちゃって、よっぽど彼のことが好きなのね。」


「あ!クラン、いいなぁ!パフもおにいちゃんと手を繋いでお散歩したい!」


「ふ、二人ともこれはその……もうお茶会はよろしいのですか?」


 クランは繋いだ手をからかわれても離そうとはせずに話題を逸らした。


「これからパフィーリアと入浴施設で気分を変えるところなのだけど、貴女はどうするの?まだどこか見て回るのかしら。」


「――クラン、彼女達と一緒に行ってきても良いんじゃないか?」


 念のために訊いただけなのだけれど、彼はわたし達に気を利かせたのかクランへ促す。

 彼女は少しだけ逡巡してから口を開く。


「そうですね。あなた様がそうおっしゃるのでしたら。でもその間、あなた様はいかがなされましょう?」


「ヒツギもわたし達と一緒に入ればいいじゃない。」


 なんの疑問も含みも持たずに提案をすると、パフィーも喜んで賛同してくる。


「おにいちゃんとお風呂に入れるの?やったあ!」


「い、いけません!わたくし、まだ心の準備が――いえ、そうではなくてその……」


 クランはしどろもどろになって、手のひらを組んでヒツギへちらちらと視線を送っていた。


「補佐官用の入浴施設もあるんだろう。今日はそこを利用させてもらうとするよ。」


 彼はクランの両肩を優しく触れて安心させるように言った。

 加えて彼女に小声で何か囁いたようだけれど。

 クランは顔を赤くしながら頷き、彼の手に自分の手を添えた。

 ともあれ、わたし達は四人で入浴施設へと向かう。


「補佐官用の入浴施設は寄宿舎に隣接されていて、案内板もあるから行けばすぐにわかるわ。」


「わかった、ありがとう。クラン、また後でな。」


「はい、あなた様。また後ほど。」


 丁字型の連絡通路でヒツギと別れると、巫女神官用の入浴施設に入っていくわたし達。

 脱衣所に到着するとそれぞれ自分の籠のある場所へ進む。


「おにいちゃんと一緒に入りたかったなあ。」


 パフィーが服を脱ぎながら呟いた。


「貴女にはまだ早いわよ――いいえ、むしろ今だからこそ言えることなのかしら。」


 十歳という思春期前の少女が性に目覚める瞬間を見れたかもしれないと思うと、少しもったいない気もした。

 わたしは服を脱ぎ終えて髪をまとめると、ちょうどクランも浴場に入る支度が整ったようだった。


「お待たせしました、ラクリマ。さぁ、入りましょう。」


「クランフェリア、貴女また胸が大きくなったんじゃない?」


 彼女は背丈が百六十五のわたしより十センチは低いにも関わらず、歳の割にかなり大きく今にも手からこぼれそうになっている。

 わたしも胸には自信があるので大きさゆえの苦労を察した。


「そ、そうでしょうか?恥ずかしいのであまり見ないでください……」


 可愛く照れる彼女を見て、彼はどのような気持ちで接しているのだろう――とつい考えてしまう。

 巫女神官用の浴場はかなり広く作られていて、七人の巫女神官に加えて補佐官を二十人連れても入れるくらいだった。


 入浴好きのわたしとしては、それだけで気分の高揚を抑えられずにいるのだった――



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