異端審問
♤
四日間の休暇で海へと来て、三日目の朝。
俺はクラン、ラクリマリアとともに別荘から車で三十分ほど離れた、円形の闘技場のような建物に訪れていた。
話によると、クランに聖務の手伝いを頼んだとの事で、俺は彼女の付き添いと車の運転で二人をその場所へ送った。
闘技場さながらの施設は警備がとても厳重で、職員のシスター達より街の兵士達の方が多いほどだ。
施設内を少し歩いたところで、俺達は兵士とシスターに引き止められた。
「七位巫女神官様、お待ちしておりました。ここから先の案内をさせて頂きます。どうぞこちらへ。」
以前、パフィーリアの街で会った気弱そうなラクリマリアの補佐官のシスターだった。
お互いに軽く会釈をしてシスターは歩き出し、それについて歩くがクランは立ち止まったままでいた。
「……クラン?」
俺はすぐさま彼女へ寄ろうとすると。
「あなた様。わたくしは聖務の支度がありますので、ラクリマと一緒にお進みください。また後ほどお会いしましょう。」
他でもないクランに言われると従うしかない。
彼女は兵士に連れられ、別の場所に行ってしまう。
――そして、ラクリマリアと二人で円形広場の客席に通されていた。
「ここからならきっと良く見えるでしょう。」
いったい何が始まるというのだろうか。
そう思い、広場を眺めていると二ヶ所ある入り口の一つから、なにやら数十人の両腕を拘束された者達が中へと連れてこられていた。
「あれはどういうことなんだ?」
悠然と見物しているラクリマリアに訊いてしまう。
「あそこにいるのは宗教国家内で紛争や事件、告発によって拘束された異教徒達の集団よ。」
「そんな者達がどうしてここに集められているんだ?」
不穏な空気を感じ取りつつ、疑問を口にする。
「すぐに分かるわ。」
すると反対側の入り口からクランが一人で歩いて出てくる。
よもや拘束されているとはいえ異教徒達の集団に対して、クランが聖なる教の教えを説いて改心や改宗をさせようとでもいうのか。
「これは、巫女神官にとって基本的かつ重要な役目よ。」
小柄な少女に異教徒の多くの男達の視線が集まる。
俺は大切な彼女が心配になり、いつでも飛び出せるように身構えておく。
隣で静観しているラクリマリアが余興を楽しむように笑みを浮かべたのが見えた。
クランは後光を背負いながら
†
わたくしの背に眩い光を発しながら、巨大な白い人型巨像の
闘技場の客席ではヒツギ様が見守っていると思うと緊張してしまいますが、深呼吸をして平静を保ちました。
『バルフート』は右手を下ろして、わたくしを乗せてくれます。
ゆっくりとした動作で向き直って両手を広げ、異教徒達へはっきりと言い放ちました。
「わたくしは神罰執行の代行者。あなた方に罪の裁定を下します。」
場内に声はよく響き、異教徒達はみな
「判決は――有罪!」
一呼吸をおいてから、さらに続けました。
「もちろん即刻――死刑!」
わたくしは
「――『血算起動』!!」
『バルフート』の鎧装に覆われた素体部が紅く発光して、四枚の肩部装甲から近接防御火器の機関銃が展開されました。
轟音とともに銃身から一瞬にして何千発もの弾丸が斉射され、異教徒達に降り注ぎます。
凄まじい速度と威力の銃弾に貫かれ、異教徒達の身体はバラバラに粉砕されて血の花を咲かせます。
立ちすくむ者。
逃げ惑う者。
命乞いをする者。
異教の神に祈る者。
その全てに分け隔てなく神罰を執行していきました。
――場内に悲鳴や断末魔が飛び交い続けます。
巫女神官として、威光を示して聖務を全うするわたくしの姿を、彼は見てくれているでしょうか。
瞬く間に異教徒達は『バルフート』の弾幕によってその姿を変え、残り数人へと狙いを定めた時でした。
近接防御火器の掃射が突如として飛来した衝撃によって弾かれました。
わたくしはその正体に目を凝らします。
身の丈ほどはある大剣。
それを振るうのはもちろん、わたくしの最もお慕いしているあの人。
ヒツギ様がわたくしと『バルフート』の前に立ち塞がりました――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます