柩(ヒツギ)の記憶 後編
♤
周囲を見渡すと暴れる『バルフート』に加えて、異教徒達による銃撃も飛び交っていた。
いつ聖堂に攻めてくるかも分からない以上、のんびりとしてはいられない。
なぜこんな状況になっているのか、それすら考える余地はなかった。
俺達は蒸気自動車に乗り込むと、すぐさま発進して街を走り抜ける。
「クラン、危ないから頭は伏せておくんだ!」
「は、はい。あなた様!」
彼女は俺の言う通りに助手席で頭を抱えて丸くなった。
なるべく安全な道を選んでいるつもりだが、それでも銃弾が近くに
そんな中、ふと視界に一人の異教徒が目に映った。
手には榴弾が握られていて、こちらに投げつけてくる。
俺は大剣を顕現して弾き返そうとした。
――が、何故か大剣は現れることはなかった。
咄嗟にクランを守るように覆い被さると、連続した射撃とともに爆弾は俺達の真上で爆発する。
身体に衝撃を受けるも、『バルフート』の近接防御火器で異教徒は薙ぎ払われたようだ。
俺は夢中で運転して
どうにか丘の上まで到着すると、俺はクランに触れて声をかけた。
「クラン、ここまで来ればもう大丈夫だ。」
彼女はもぞもぞと起き上がり、辺りを見回してから俺を見る。
「この場所はわたくし達の……あ、あなた様!?」
クランは驚きの表情を見せて声を上げた。
――身体が重い。
真っ直ぐに歩くことすらままならない。
俺は身体を手で押さえながら――丘に咲く小さな十字の花達に並んで、倒れるように寝転がる。
押さえた手を掲げると、その手は真っ赤に濡れていた。
爆弾の破片が背中や腹部を深く抉っていたのだ。
意識が朦朧としていく中、夜空を見上げる。
視界にはとても収まりきらない星空。
大きな二つの月と巨大な幾何学模様。
現実味のない幻想的なその光景は、死に間際にしては随分と洒落ていた。
「どうして、どうしてこんな事に……」
俺を覗きこむクランの可愛らしいハスキーな高めの声は震え、同時に温かい雫が数滴、顔に落ちる。
血に濡れた手を差し出して彼女の頬に触れ、言葉を絞り出す。
「クランフェリア、怪我はないか?」
彼女は膝の上に俺の頭を乗せてくれた。
「わたくしなら大丈夫です。けれどあなた様は……」
そこで言葉に詰まり、さらに大粒の涙が溢れる。
彼女を悲しませていることに心が痛むのを強く感じた。
クランは懐からロザリオを取り出して俺の手に握らせた。
「あなた様っ!わたくしを一人にしないでくださいっ……ずっと一緒にいると、約束したではありませんかっ!」
涙ながらに訴えるクラン。
急速に意識が遠のいていくのを感じ、視界が白く狭まる。
だめだ、まだ彼女に伝えなくてはならない事がある。
必死で脳裏に浮かぶ言葉を口にする。
「クラン、俺は君のことを心から愛している。たとえ死んだとしても魂はずっと君の傍にいる。だから悲しまないでほしい。それを忘れないでくれ……」
クランは俺の言葉を聴いて、涙に濡れたその瞳が紅く光り輝く。
彼女の背後に
「あなた様……わたくしは諦めません。ずっと、二人で一緒に……たとえあなた様の魂を――わたくしの
そして俺の意識は途絶えた――
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