鎮静
♤
数日後。
俺とクランは二人で宗教国家都市中央部にある巫女神官の保養施設に訪れていた。
パフィーリアが治療と療養のためにしばらくの間、滞在することになったからだ。
少女の寝ている部屋は広めで陽当たりが良く、窓からの景色も綺麗で過ごしやすそうだが当の本人は退屈にしていた。
「あ!クランにヒツギおにいちゃん、来てくれたんだ!」
「こんにちは、パフィ。具合はいかがですか?」
優しく声を掛けるクラン。
「パフは元気だよ!ご飯も食べてるし、痛いところももうないけど部屋で寝てるのは飽きちゃった。」
「はは、それは何よりだ。困ったことや欲しいものがあったら何でも言っていいからな。」
本当に元気そうで胸を撫で下ろす。
パフィーリアの管轄である南西部の街は現在、大規模な復興に取り掛かっている。
屈指の裕福な貴族である二位巫女神官のヴァリスネリアが出資、指揮を取っているので元の街並みに戻るのもそう長くはかからないだろう。
俺とクランはというと街の人々や信者達の心のケアや治安維持に奔走していた。
とはいえ、もともと神の子とされたパフィーリアへの
肝心な少女の補佐官のことだが、どうやらこの騒動で最初の犠牲者となったらしい。
パフィーリアの聖堂で少女のシンボルである五芒星と十字が刻まれた血に染まったコートと、首の無い遺体が見つかった。
代理の補佐官はまだ決まってはいない。
そうして、他愛のない話をしていると部屋の外が何やら騒がしい。
「ラクリマリアさん、また保養施設に入り浸ってエステですか。聖務は大丈夫なんですか?」
「わたしはできる女なの。貴女こそ最近よく会うけれど、年末年始の行事で忙しいのじゃなくて?人のことより自分の心配をしなさい。」
「残念ながら――というか、あたしも不本意ですが予定は半刻単位で埋まってます。お見舞いに来たのもその範囲内なのですよ。」
部屋の扉が開かれると彼女らに目を向ける俺達。
「あら、クランにヒツギ。貴女達も来ていたの。」
「ヒツギさん!
嬉しそうにこちらへ寄ってくるヒルドアリア。
「えへへ、奇遇ですね!あ、そうだ。あたし、お見舞いに果物を持ってきたんです!みんなで食べましょう!そのあとは――良ければ二人でお散歩しませんか?」
「奇遇というより、わたし達は
ラクリマリアがジト目で冷静にツッコミを入れるとパフィーリアも口を開く。
「パフもおにいちゃんと、ふたりでお散歩したいなあ。」
目を輝かせて呟くそれはまさに恋する少女さながらで、その場にいる俺以外の皆が固まった。
「ラクリマリアさん、やっぱり油断できないライバルが出来てしまいました。あたし、負けませんからね……!」
「あはは、そうなると思っていたわ。それはそうとヒツギ、限定物の美味しいワインが手に入ったのだけど一緒に飲まない?――もちろん、わたしの部屋で。」
そんな場の様子を見て、クランが真顔で俺の腕に大きな胸を押しつけて組みつく。
「あなた様、今日は久しぶりに外食をしましょう。中央部都市を観光して、そのあとはホテルでゆっくりと。たまの贅沢も悪くはありませんね!」
様々な主張をする彼女達に囲まれて困惑しつつ、ひとまずは一連の騒動が落ち着いたようで安堵するのだった――
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