決着

    ‡


 白い巨像の神鎧アンヘル『バルフート』は左腕の大型機関銃で牽制するように射撃を続けます。

 その威力は『ウルスラ』の防壁や耐性を上回り、天使の神鎧アンヘルの鎧装を穿ちました。

 それでも、少しの間をおいて再生が始まります。


「あなた様、チャンスは一度です。『バルフート』が斬り込んでから修復される前に、わたくしの神鎧アンヘルが突撃して内部に潜り込みます。その後、力の供給を遮断する防壁を展開したところを大剣で断ち斬ってください。」


 ヒツギ様は難しい顔をしながらも頷きました。

 わたくしは彼に向き直って優しく声をかけて。


「……そんな顔をしないでください。あなた様にはこの世界のわたくしがいます。これは、本来あるべき形に収まるだけの話なのですから。」


 本音を言えば、愛する彼の傍から離れたくはありません。

 けれど、わたくしはこの世界にはいないはずの存在。

 また、今まさに『バルフート』の内部で苦しむヒルドアリアを追い立てたことに対する己のけじめとして。


 わたくしもヒツギ様への献身と信念を示す時なのです。


    ♤


 天使の神鎧アンヘルは俺達を近づけまいと猛攻に転じていた。

 赤い羽根の槍を弾幕として、こちらの動きを狭めながら強力なブラスターで撃ち落とそうとする。

 白い巨像の神鎧アンヘルはそのたびに焔の翼を羽ばたかせ、高速で飛び回った。

 ……不意に黒い神鎧アンヘルが俺の頭の中に話しかける。


《俺が明確に意思を取り戻したのは、北東部都市でお前と拳を交えた時だった。俺は全てを瞬時に理解した。エノテリアともう一人の俺が共に転生した存在なのだと。そして、彼女をお前に任せようとも考えた……》


 そこで『ザルクシュトラール』は一呼吸おいてから続ける。


《しかし、俺もまだまだだったな。彼女エノテリアがお前に抱かれるのを見ている事は出来なかった。》


「……参ったな。クランとの情事はエノテリアに見られて、エノテリアとの行為はもう一人の自分に見られていたのか。」


 これでは何か、変な性癖に目覚めてしまいかねない。

 黒い神鎧アンヘルは軽く鼻で笑う。


《――彼女エノテリアを満たしてくれたことには感謝している。そのおかげで彼女の心は救われ、俺もこうして彼女の為に身をすことが出来るのだからな。》


『バルフート』は背部のカチューシャ砲で『ウルスラ』の頭部を狙い、爆風で視界が遮られた瞬間――

 全力で再接近を開始し、右手の大剣で真一文字に天使の胸部鎧装を斬り裂いた。


《ヒツギ、この世界のクランを……幸せにしてやってくれ。》


 最後の言葉を告げ、『ザルクシュトラール』は弾丸のごとき速さで飛び出して、破壊した鎧装から内部へと突撃し――

 その勢いは『ウルスラ』を背中から地に落としてしまうほどだった。

 そして、を埋めたまま傷は塞がって……瞬く間に白い天使は全身が黒く染まっていく。


「……がぁっ!?何をするつもりで……いや、この力はまさか……!」


 俺は『布都御魂ふつのみたま』の力を最大限に発揮しながら、アルスメリアの神鎧アンヘルを見据える。


「ヒツギ……クランフェリアを籠絡ろうらくて妾に刃向かう異端者!信仰の敵め!」

 ※うまく丸めこんで思い通りにすること


 起き上がろうとする『ウルスラ』を背後から襲う影。

 十二枚の赤い翼を切り裂きながら、八本の蟷螂かまきりの鉤爪が天使のからだを捕らえた。


「くひひっ!やっと捕まえた――もう絶対に逃がさないよぅ!」


 パフィーリアの神鎧アンヘル――『クインベルゼ』。

 上半身が人型の女王アリは地を這って、虎視眈々と待ち受けていたのだ。


「アルスメリア、俺は君のことを何も知らない。恨みもない。しかし、君が作ろうとしている……犠牲の上に成り立つ世界を受け入れることもまた出来ない。」


 クランとエノテリア、そしてヒルドアリアの想いを胸に。

『バルフート』は体躯の倍はある大剣を上腕に振りかざす。


「これで……決着だっ!」


 ――その一撃は、黒く染まった天使の神鎧アンヘルを中心から真っ二つに斬り捌いたのだった。

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