伊達政宗、殺生をするのは伊達じゃない その壱

 忍者騒動が収まって、すでに一ヶ月も経った。時間とは過ぎ去るものだな。一秒一秒を大切にしないといけない。

 と思いつつ、俺は小十郎、景頼とともに尚のこと三人で将棋を指し続けていた。しかし、さすがにこのままでは駄目だと思い立った。

「二人とも。よく聞いて欲しい」

 二人は俺に注目した。

「ずっと将棋を指していてよいものか? いや、良くない! 何か新しいことをやろうではないか!」

 すると、景頼は弓矢を三本、餌なども出してきた。「私もちょうど違うことをやろうと準備していました。鷹狩りをやりますょう」

「鷹狩りか。鷹匠たかじょうは用意出来ているのか?」

「はい」

「それはいい! 小十郎も行くだろ?」

「もちろん、お供させていただきます」

 鷹狩りは鷹に獲物を見つけさせ、その獲物を鷹に捕獲させる。そして、持ってきた餌と交換する、という流れだ。もう少し入り組んだ説明が必要なのだが、今はざっくりでいいだろう。

「景頼。馬の準備も頼む」

「承知しました」

 諸々の装備を装着し、馬にまたがった。小十郎と景頼もまたがり、他大勢の家臣も加わって出発する。

 馬をパカパカ進めると、広い平野に出た。

勢子せこ! 小獣しょうじゅうを見つけたか?」

「まだです!」

 使えない勢子だ。平野に出てから、早十分は経つ。やれやれとため息をつくと、勢子が叫んだ。どうやら、鳥を見つけたようだ。どんどん追い込んでいく。

「鷹匠! 鷹を放つか?」

「さようで」

「よし!」

 鷹匠は鷹を放った。天空を滑空し、美しい足で野鳥を捕らえた。よしよし。鷹匠は鷹を呼び戻し、代わりの餌を与えた。野鳥一匹を捕らえたり!

 だが、それも飽きてくると、持ってきた弓矢を使って、馬上で遠くに矢を飛ばして遊び始めた。これがなかなか気持ちの良いものであった。


 鷹狩りを終えると、日帰りで城に戻った。最近はあまり動かしていなかった体を動かせて、かなりスッキリとした。

 とにもかくにも、今日の夜は輝宗が催す宴会がある。それも楽しみだ。まずは宴会までに鷹狩りの疲れを取っておこう。俺は横になった。

 宴会の前に、小十郎に起こされた。

「若様、起きてください」

「お、おう。起きたぞ、小十郎」

「もうすぐ宴会でございます。そろそろ顔をお見せになった方がよろしいかと......」

「わかった。では、宴会場に行こう」

 実は、俺は酒が大好きだ。前世でも毎日呑まないとやっていけないくらいにだ。だけど、転生してからはそうでもなくなった。ただ、この体が酒に強いことは確かだし、酒を呑みたいという欲求がないわけでもない。伊達政宗は酒豪とも聞く。いや、酒を呑んで家臣を殴ったとも伝聞するし、酒豪ではないのか? ただ酒を大量に呑むだけの奴か?

 宴会場に入ると、酒がずらりと並んでいる。戦国時代に限らず、昔は飲酒に年齢制限はない。また、宴会を催した人物に敬意を払うために酒を大量に呑む。こういう時代は俺にすごく向いている。前世の俺もどちらかと言えば、酒豪ではあったと思う。

 目の前に酒があり、我慢が出来ない。足がムズムズして、喉から手が出て酒瓶を取りそうな勢いだった。

 よだれが出そうになるのをおさえ、呑んでも良いときを静かに待った。

 輝宗が現れ、宴会は大いに盛り上がった。酒を大量に呑みまくるぞ!

 度のかなり強い日本酒を手に取り、盃に注いだ。今の体だとどれくらいまで呑めるのか、まずは調べなくてはなるまい。

 盃に一滴残して飲み干す。これが戦国時代のマナーだ。感覚から察するに、この程度の酒ではこの体はやられない。これはいいな。

 自然と手が止まらなくなる。この体が酒を欲している。次々と盃に酒を注いでいく。すると、隣りにいた小十郎が注意した。

「若様。急ぎすぎです」

「おっと......。うますぎて、つい」

「若様は未成年なのですから、飲酒もほどほどにしてくださいよ」

「すまん。これからは気をつけるよ」

 そうは言ったものの、やはり手を止められるわけがなかった。今日は気持ち良く眠ることが出来そうだな。久々の酒で脳内がお花畑の内に床に入りたい。

「なあ、小十郎」

「どうしましたか、若様」

「小十郎ももっと酒を呑まなくていいのか?」

「私は基本的にお酒が苦手で......。ちゃんと呑まなくてはいけないことは承知なのですが、気分が少し悪くなってきてしまいますし」

「大丈夫なのか?」

「若様が気を遣うことではございません」

「そういうわけにもいかん。小十郎は俺の大切なとも何だからな」

 『朋』とは、説明の手間を省くために非常に簡単に言うと、まあ、仲間? みたいなニュアンスだったはずだ。

「私がですか? そんな、恐れおおい......」

「俺達は最高のバディだ。右目を斬った時に、一番手厚く看病してくれたのがお前だろ? そんくらい仲良いぞ」

 小十郎は謙遜けんそんするように、そんなことございませんよ、と言って盃に酒を流し込んでいった。

 俺も負けじと盃に一気に酒をぶち込んで、ゴクゴク飲み干す。段々と体に酒が回ってきた。そろそろ、酔ってきたようだ。目の前がグラグラと揺れ始めている。

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