伊達政宗、輝宗を殺すのは伊達じゃない その拾陸

 テレビの報道は、世界を股に掛けるアルセーヌ・ルパンを大々的に取り上げた。見出しはもちろん、数年前に日本を騒がせた黄金仮面の再来、というものだ。

 一方で各有力紙は、日本を代表する怪人二十面相が必ず勝つなどと書いた。だが、日本市民にしてみればどうでも良かった。アルセーヌ・ルパンも怪人二十面相も殺生せっしょうを好まないが、これからも人を殺さない保証はない。一人で家を出歩くだけでも、相当な覚悟が必要となってしまった。

 そんな頃に、ルパンは怪人二十面相に勝つためにと資金調達の手段を考えていた。ホームズもこれに手伝う姿勢を見せていて、これなら怪人二十面相にも負けなしだと笑いが止まらなかった。


 日本の資産家として名をはせる横田よこた國雄くにお氏は、莫大ばくだいな資産を築き上げていた。その時にルパンと怪人二十面相の二人が対決をするということが報道され、いつ宝を盗みに現れるかヒヤヒヤしている。

 本日も尾行に警戒しつつ、家に足を踏み入れた。今日も何もなかったと安堵あんどのため息をもらすと、かばんを置いた。ネクタイをほどき、椅子に腰掛けようとした時だった。横田氏は家にある物の位置が微妙にズレていることに気付いた。

 そしてこう考える。ルパン、もしくは怪人二十面相がこの部屋に侵入して宝を探していたのではないかと。そう考えると、横田氏はいてもたってもいられなくなり、宝の隠し場所である本棚に近づいて、赤々と光り輝く大粒のルビーを取りだした。それを隠れ見ていたルパンは大喜びで登場した。

 横田氏は驚愕きょうがくし、ルビーを戻す。「誰だ、貴様は!」

「驚くようなもんじゃない。私こそフランスを代表する怪盗アルセーヌ・ルパン。怪人二十面相よりもいくらかあざやかな手口でしょう?」

「貴様がルパンか!」

「いかにも、横田氏のそのルビーを狙っておるものですよ」

 横田氏はチラリとルビーを見る。「このルビーは渡さない」

「ええ、ええ。それはもちろんわかっておりますとも。ですから、無理矢理奪い去ろうという算段です」

「くっ......」

 ルパンを前にしては横田氏はルビーを奪われるしかない、と諦めた。しかし、だけは奪われてはならないのだ。横田氏は口を結ぶ。

 これはホームズの入れ知恵である。物を微妙に動かせば、敏感びんかんな横田氏は自ら宝の在処ありかを教えてくれるのではないか。ルパンはそれを取り入れて、見事に実行してみせた。そして、ルパンは大人しくなった横田氏を椅子に座らせて縄でしばった。

「では、横田氏。私はルビーをいただきます」

「構わん」

 ルパンは以前から練習していた日本語を使い、張り切って横田氏と話していた。親日家ルパンは以前からの練習の成果で、日本語をある程度流暢りゅうちょうに話せるようになっていた。

 ポケットに手を突っ込んだルパンは、ピストルを取りだして銃口を横田氏のこめかみに当てた。

「何か隠していることがないか?」

 横田氏は身構えた。あれだけはルパンに奪われたくない。

「何を言っている? 何も隠していない」

「ハハハハハ! ではなぜ、目が泳いでいるんだ!」

 ルパンはピストルを強く押し当てた。そして指を、引き金に掛ける。

「貴様は私がルパンだから、人が殺せないだろうと高をくくっているかもしれんが、それは違う。撃つときは撃つ。実際に誰かを殺して見せたいが、貴様を殺しては駄目だから誰かいないものか」

 ルパンが見回すと、物音を聞きつけた横田氏の警備を担当するとおるが駆けつけてきた。ちょうど良い。ルパンは銃口を徹に向けて、正確に心臓部を狙って弾丸だんがんを放った。

「うぅ......」

 徹は倒れ、息絶えた。

「徹! 徹!」

 横田氏は徹の名を叫び続けるが、それに返事をすることはなかった。

「さあ、何か隠していることはないかね?」

「......銀行にルビー以外の宝石を預けている。時価数億もした宝石もある」

「何銀行で、パスワードはなんだ?」

 ピストルをテーブルに置いたルパンは、手帳を開いてボールペンをノックした。

鷹石たかいし双葉ふたばおか第三銀行、パスワードは64506」

「64506、だな」

 ボールペンを手帳の上で動かし、銀行名とパスワードを記した。ルパンは笑顔になり、手帳とボールペンをポケットにしまい込んだ。そして、徹はムクリと起きあがる。

「と、徹! 生きていたのか!?」

「僕は徹じゃない」徹、もといホームズは帽子を取って薬品やメイクを落として着替えた。「僕はホームズさ」

「というわけだ」ルパンはテーブルに置いたピストルを手に持った。「私、ルパンは人殺しはしないんだ」そして銃口を横田氏に向けて、指で引き金をゆっくりと引いた。「このピストルはから。つまり、空砲なんだよ」

「ちくしょう!」

 ルパンはピストルを捨てて、変装をして手伝ってくれたホームズと握手をする。

「ホームズのお陰だ」

「いや、ルパンの努力の賜物たまものだよ。それより、そこの男はまだ隠し事をしているようだ」

「やはりか。少々、まだ目が泳いでいる」

 二人は横田氏をじっと見つめる。二人が協力すれば、怪人二十面相にすら負けない泥棒コンビとなり得るのである。

 ついにバレたか、と横田氏は肩を落とした。

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