伊達政宗、弱みを握るのは伊達じゃない その壱

 さて。今まで登場して来なかったが、これから会う重要人物がいる。伊達政宗を語る上で欠かせない人物だが、俺は伊達政宗の九歳になるまでの記憶がない。それ故に、奴と話すとボロが出かねないため避けていた。が、現在は暇とのことで俺の元に呼んだ。

 奴の名は虎哉こさい宗乙そういつ資福しふく住職を務め、伊達政宗の師匠でもある。簡単に説明すると、伊達政宗の教育係的な存在だ。

 虎哉は腕を組みながら、俺に近づいてきた。

「若様。虎哉です」

「師匠。久しいですね」

「そうですね。幼い若様は活発でしたが、頭の良いお方でもありました。大成するとはわしも思っていましたが、まさかここまで成長するとは計算外です」

「これも師匠のお陰ですよ。小さい頃からの師匠の教育が、実を結んだのでしょう」

「そのようなことはございません。このような老害が若様のお役に立ったとは思えませぬ。日々の努力が、めでたく開花したのです」

「それはちと大げさですが」

 話してみると、案外スムーズだった。虎哉宗乙。名前からして堅物だと思ったが、さすがは伊達政宗の師匠。

「今日、師匠を呼んだのは他でもなく、頼み事があるのです」

「頼み事? わしにですか?」

「はい」

「何でも申してください。若様のためなら、何でもやってみせますよ!」

「私のパーティー舞踏会に参加してほしい」


 パーティーの説明をしよう。俺が催すパーティーは、虎哉のためのものだ。師弟の再会を、盛り上げようと俺が計画した。パーティーは夜になってから祭りのようにワッショイワッショイで始まる。輝宗には、うるさくする許可を取った。ある程度の騒音に抑える。

 虎哉を楽しませるためには、前世のような祭りに近づけて屋台を設ける。食べ歩きとか、絶対楽しい。

 屋台の設計は鍛治屋の権次と兼三にやらせた。

「権次、兼三! 屋台の進み具合はどうだ?」

「ええ」権次は頬を掻いた。「まあ、結構進んでいますよ」

「そりゃいいや。屋台に並べる食いもんも、即行で用意させる」

 兼三は紙の上で筆を踊らせていた。「設計図もそろそろ完成するので、建築係にも伝えておいてください」

 建築係はクロークが担う。クロークは米沢城や俺を気に入ったらしく、米沢城の一室を借りて住み込んでいた。

「わかった。建築係に伝えておく」

 クロークのいる部屋に足を踏み入れて、尊氏様、と呼ぶ。

「お、政宗。ついに出番が回ってきたか?」

「はい。屋台の建築をお願いします」

「任せろ。力には定評がある。上位魔人をあなどらない方が良いぜ」

 設計図を元に俺が角材から一瞬で切り出したものを、クロークが組み立てる。この作業を繰り返し行うことによって、米沢城内に屋台が並べられていった。

「前世も懐かしいもんだ」

 屋台を見ながら、前世の思い出にひたっていたが、そんな時間はない。急いで屋台の出し物にする食べ物を用意するために駆けた。

 食べ物の用意は、人海戦術を利用し未来人衆に命じた。仁和が俺からの命令を未来人衆に指示し、未来人衆一の行動力を誇る射手・忠義が率先して食べ物の調達をした。それを見た皆は、忠義の後に続いて食べ物調達に奮闘。何とかなりそうだ。

 次はライトアップ。松明たいまつ等でのライトアップだが、そこは小十郎に丸投げしたがどうなっているだろう。

「神辺! ライトアップはどうだ?」

「それが、一工夫したかかなり前世の祭りに近づいたよ」

「松明だけのライトアップ。どう工夫したんだ?」

「松明の上に、半透明で色がかかっているものをセットしたんだ。すると、松明の光りが青くなるんだ。この半透明のものは、仁和から貰った。戦国時代に来るときに、未来から持ってきた物の一つらしいよ」

「ん? 仁和? じゃあ、このアイディアも仁和のなんじゃ......」

「よくわかったな」

「仁和のアイディアなのかよ!」

 名軍配士は、よく思いつくな。これからは、アイディアに詰まったら頼ってみよう。

 祭りの裏方人員の確保は、景頼にやらせた。家臣団の中から、筋肉隆々のりすぐり十人の精鋭を確保していた。問題なし、っと。

 成実には、祭りで参加者同士の混乱を避けるために一時的に編成された部隊の指揮を任せた。成実には指揮力があるから、これも問題はない。

 俺はパーティー主催者として、参加者を呼ぶことを行う。今まで会ったことのある奴らを招待する。誰書いたかな......。んー、あんまり戦国時代で知り合いは少ないからな。あいつでも呼ぶか。エセ能力者・真壁まかべ河親かわちか。どれくらい詐欺師として腕を上げたのかも楽しみだからな。


 こうして、パーティーの用意が終わって虎哉を主役として屋台かライトアップされた。

「オラッ! 許容範囲内で、騒げや歌えや! おりゃ!」

 パーティーは騒々しく開始された。俺は虎哉に食べ物を渡して、おいしく胃に収めていた。

「師匠、おいしいですか?」

「うまいぞ」

 二人で騒いでいると、同調して周囲もうるさくなった。ただ、輝宗に注意されるほどうるさくもなかった。しかし、その時はなぜか、輝宗はカンカンに怒って、うるさい、と叱りに来た。

 許容範囲内の音ではあったはずなのに、何故輝宗はうるさいと怒ったのか。謎である。

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