伊達政宗、弱みを握るのは伊達じゃない その弐

 輝宗は怒った。怒ったが、その理由はわからない。だが、俺は急いでパーティーの音量を下げるように命じた。

 この件で、輝宗からの信頼度が下がったらまずいよなぁ......。ってか、許容範囲内の音量だったはずなのに、何で怒ったんだ?

 何があったのか。これは調べてみる価値がありそうだ。調べるといっても、どうやれば良いのか。これは推理しかない。

 俺が腕を組んでいると、虎哉が話し掛けてきた。

「若様。何を悩んでいらっしゃるのですか?」

「なぜ父上が先ほど怒ったのか、を考えています」

「そんなことより、私は若様と会ったらやりたいことがあるのです」

「何でしょうか、師匠?」

「一戦交えたいのですよ」

「私と、ですか?」

「はい」

「私の強さを知った上での発言でしょうか?」

「若様が強くなったことは、承知ですよ。その上で、勝負をしてみたいと思いました」

「では、私も師匠だからと言って手加減はしません。そして、師匠が私に負けたら私の作業を手伝ってもらいます」

「良いですね。若様が負けた場合は、これからも私のことを師匠とお呼びくだされ」

「わかりました」

 虎哉はずっと伊達政宗の師匠であり続けた。俺は歴史を変えないから、虎哉のことを勝ち負け関係なく師匠と呼び続けよう。

 両者刀をつかみ、相手を見つめる。

「戦いを、始めましょう!」

「手加減はしませんから、一瞬で片が付きますよ」

 虎哉になら、四分の一の力で十分だろう。剣技でねじ伏せよう。

 刀の大振り。虎哉が刀で、俺の刀を受け止める。ここから、虎哉の重心を動かしてやる。

「師匠! とどめです!」

「若様、まだ甘いですよ」

 虎哉は体勢を崩したはずなのだが、そこから一回転して間合いを詰めてきやがったか。かなりの強者つわものだ。

 なら、刀に防御現象を会わせて、複合技だ。

「ムッ! 若様の刀が鋭く......」

 気付くのか、この小さい変化に。教育係だと思ったら、とんだ伏兵だ。虎哉は強い。

 容赦はしないぞ。防御壁を体の周りに展開してから、俺の重心を下に移動させる。これでなかなか倒れないぞ。

「師匠、行きますよ!」

 虎哉の顔に剣先を向けて、懐に潜り込む。虎哉は受け身の体勢になるから、そのすきに背後に移る。刀を虎哉の喉元に回す。

「私の勝ちで良いですか、師匠?」

「ハハハ。これは完敗ですね」

 いや、虎哉は強かった。そうへいというものがあるから、強かったのか? 強さの理由は不明だけど、さすがは伊達政宗の師匠だな。最初に舐めて戦っていた俺の完敗だ。

「では、師匠には私の作業を手伝ってもらいますね」

「別に構わないが、どんな作業なんですか?」

「父上の弱みを握るのです」

 輝宗がパーティーの最中に、うるさいと怒っていたのは何かがあるはずだ。それはもしかすると、輝宗の弱みかもしれない。輝宗の弱みを握られるなら、得しかない。

「お屋形様の弱みを? 気が引けます......」

「約束は約束。作業に加勢していただきたい」

「若様のお頼みとあらば、仕方ありません」

「では、作業を手伝う他の人員も紹介します。着いてきてください」

「はい」

 まずは虎哉に、未来人衆を紹介する。しかし、未来人だけで構成された部隊だとは言わない。未来人の存在が、不特定多数に知られてはならないからだ。

「仁和! 仁和はどこだ?」

「仁和です、政宗殿」

「おぉ、仁和か」俺は虎哉に目を向ける。「こちら、師匠です」

「師匠?」

「虎哉宗乙と申します。若様が幼少の頃、教育係をしておりました」

「よし、仁和。八巻やまき東野ひがしの、二階堂、忠義を連れてこい」

「はい、わかりました」

 八巻健介けんすけとは、二階堂が所属する速攻部隊の隊長。東野一成かずなりは、忠義の所属する遠距離射手部隊の隊長だ。四人は未来人衆の中でも、頭一つ飛び抜けている。仁和に至っては、頭の回転が良い異色の強さだ。

 仁和は、八巻、東野、二階堂、忠義を連れてきた。

「師匠。この五人は私の部下の中でもかなり強い者達です」

「そちらの女性さんも?」

「仁和は私の軍配士です。彼女の機転で、たびたび助かっています」

「まだ若いのに、若様の右腕確約というわけですね」

「そんなところでしょう」

 あと、未来人衆の中にあいつも混じっていたと思ったんだが......。

「仁和、あいつは?」

「いますよ。呼びますか?」

「頼む」

 仁和が呼んだのは、久し振りに会う奴だ。エセ能力者・真壁だ。

「若様! 急に祭りに呼ばれて、いやぁ嬉しかったよ。私は何をすれば?」

「俺の作業を手伝えば良いんだ。わかったか?」

「私の能力を使う場合はあるのかな?」

 気象学の知識が、真壁の能力だろ? 気象学の知識が必要な時なんてないな。俺だってちょっとは気象学をかじっている。

「ま、役に立つような状況になった時は、頼むよ」

「任せな! 能力者の実力を見せてやらぁ」

 ダセえ決めゼリフだ。偽の能力者のくせに、俺が呼んでやったんだ。偉そうにするな。

 その後も虎哉に紹介をしていった。米沢城もざっくりと案内した。では、これから輝宗の弱みを握りに行こう! うまくいけば、俺の思い通りに輝宗を操れるぜ。

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