伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その参

 アマテラスに協力を頼まれてから、一度地上へと帰された。俺はアマテラスに協力するつもりだし、見返りとして何か協力してもらうつもりだ。

 協力する時が来るまで、今まで手を付けてこなかったところに目を向けることにした。最近は伊達氏の兵士の数が増えたのは良いが、大人数すぎて食料をまかなうのに精一杯で兵士として使えるまでにきたえられていない。

 その最たるものは夜行隊だ。夜行隊に元夜盗のメンバーが多いことは周知の事実だが、元夜盗だけあって奇襲に特化しているのが原因で普通の戦いに不向きだ。だから今のうちに夜行隊を鍛えて、普通の戦いが出来るようにさせたい。

 兼三と権次に強力な武器を作らせて、それを夜行隊の奴らに装備させることによって強化させる手もある。だが、それだと赤子が刃物を持ったようで危なっかしい。一般人が強力な武器を持っても強化されちまうことになるし、そのような強化の方法はさせたくない。俺は鍛えるのみだ。

 木刀で鍛えるのも良いが、最初から真剣を使うことも可能だな。元夜盗ならばある程度は真剣も使いこなせると思うし、まずは舞鶴を呼んで指示を出し、夜行隊達を開けた場所に集めるか。

 階段を駆け下りると、夜行隊は一同で訓練をしていた。俺は舞鶴の元まで行き、訓練の様子を尋ねた。

「調子はどうだ?」

「これはこれは若様。調子は良いですよ、もちろん。それで、どうなさいましたか?」

「夜行隊を鍛えようと思う。俺の目的を果たすためには強い手駒が必要なのでね」

「目的?」

「この世界を我が物にする」

「広大な夢ですね。その日が来るまで我々は尽力いたします。して、鍛えるというのは?」

「俺がお前ら夜行隊を鍛えるという、そのままの意味だ」

「若様が直々に鍛えるということですか!?」

「嫌だったか?」

「いえ、身に余る光栄に存じます!」

 少しオーバーな反応だな。伊達政宗と言えど、まだ奥州は統一していないのだからそこまで偉くもないのに。

「そんじゃまー、まずは舞鶴と真剣で一対一をしたい」

「私ですか!」

「夜行隊の隊長になった時は刀の扱いがなっていなかったが、あれからどう成長したのか見極めたい」

「わ、わかりました」

 舞鶴は夜行隊を離れさせ、地面に置いていた刀を握った。俺もごく普通の刀を鞘から引き抜いた。

「これは舞鶴が使っているのと性能の変わらない刀だ。いつもの俺が使っている刀にあるような細工は施されていない」

「ということは、この勝負の勝敗は単純な実力で決まるということですね」

「いや、ちょっと違う」

「えっ!?」

「こういう勝負の勝敗には実力も関係するが、基本的には経験が物を言うのだ!」

 俺は刀を強く握り、舞鶴の死角に入ってから気配を殺し、背後に回って刀を振り下ろした。舞鶴は反応が遅れたので、斬り殺す寸前で刀を静止させる。

「俺の勝ちだ、舞鶴」

「負けました。まさか死角から一瞬で背後を取られるとは」

「これが経験だ。目で追いにくい部分をいながら死角に入るのがコツだぞ」

「これが経験の差というものですか」

「まあな。次は舞鶴が先に攻めてこい。二回戦を始める」

 二回戦が始まるとともに舞鶴は俺の死角に入り、背後に回ろうとした。一度見ただけの技をコピーする力量だけでも驚きだが、真に驚くべきは技の精度。

 舞鶴が俺に披露した背後を取る技は俺の技のコピーのはずなのに、すさまじく精度が高い。もしかするとだが、舞鶴の本領は技のコピーにあるということなのか?

 俺が隻眼だから普通の奴より死角は多いが、まさかちょっと前まで刀を扱えない舞鶴に背後を取られるなんて失態を犯すとは。

 っと、ここで舞鶴に負けたら当主としての俺の威厳いげんがなくなってしまう。勝たなくては。

 すぐさま振り返り、舞鶴の攻撃の軌道を刀でらすことでいなした。

「なっ!」

「これも経験の差という奴だ」

 攻撃をいなされた舞鶴は姿勢を崩したので、俺は刀で喉元に刃先を軽く当てた。

「技を真似るのは良い。良いのだが、応用力の無さは重大な欠点だ。技を真似るとしても、応用を加えろ」

「あまり私は成長していませんか」

「いや、技を真似ただけなのにかなり高い精度だった。真似るというのが舞鶴の真骨頂しんこっちょうだと思うぞ」

「真似るのが真骨頂ということは、夜盗だった経歴が役に立ちましたね」

「夜盗が何か関係しているのか?」

「泥棒とは何でも盗むものなのだ、と教わっています。なので技術を見て盗むようにしてきました。その結果、見ただけで技が真似出来るようになったんです」

 夜盗って半端ねぇな......。ということは、舞鶴以上に戦闘に長けた奴が夜行隊に所属している可能性があるというのか。夜行隊は才能の塊が集まる隊だな、まったく。

「よし、じゃあ夜行隊を鍛える。舞鶴は夜行隊で戦闘力上位五名をまずは呼んでくれ。どれほどの力を持っているのか見てやる」

「上位五名を呼べば良いのですね?」

「ああ」

「わかりました」

 舞鶴は五人の名を呼び、一列に並ばせた。二階堂ほどの筋肉質の奴が一人いるが、そいつは二階堂のように接近戦タイプかかもしれない。刀や素手での戦闘では接近戦をする奴が当然厄介だから、気をつけておこう。

「五人で俺に掛かってこい!」

 五対一などは戦で何度か経験している。久々に神力は使わずに戦ってみよう。

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