伊達政宗、援軍要請は伊達じゃない その弐

 蘆名からの援軍を断られたことを、急いで輝宗に伝えた。

「なぜ援軍が断られた?」

「それは、私の書いた書状での口調が無礼だったとのことです」

「何をやっているんだ、政宗! どんな手を使ってでも、蘆名から援軍を送ってもらえ!」

「わかりました」

「策はあるのか?」

一縷いちるの望みにかけた、言わば命懸けの策を講じております。一日、二日程度で吉報を届けしましょう。それを約束します」

「吉報だと良いがな......」

「安心してください。現在、小十郎、景頼、成実ら家臣を中心とした者で会議を開いています。命懸けの策は理論上、完成しているのであとは実現に向けて作戦を練ります。書状に布石ふせきを仕組んでおいて正解でした」

「布石だと? それは何だ?」

「それは吉報とともにお伝えしましょう」

「政宗がそう言うなら、信用してもいいだろう。蘆名から援軍を送ってもらえるよう、最善を尽くせ!」

「は、この伊達政宗、尽力いたします!」

 輝宗への報告を終えて、会議の開かれている場まで向かった。小十郎と成実が激しく口論していて、他の会議参加者は小十郎派と成実派の考えに二分されていた。

「小十郎、成実。どのような考えか述べてみてくれ」

「まずはこの小十郎からでよろしいですか?」

「......かまわない。続けろ」

「蘆名の居城にこっそりと忍者を送り、書状を見つけ出させるのが妥当です」

「なるほど。成実は?」

「私は、そのような下劣げれつな作戦ではなく、きちんと謝罪文を送るべきです」

 すると、小十郎が立ち上がった。「若様のお考えを、下劣とは貴様!」

「待て、小十郎。成実の考えももっともだ。私自身、下劣な作戦だと承知の上だ。この作戦は、最悪の場合に備えた苦肉の策。つまり、今が最悪の場合だということを頭に入れておけ。これからは、この苦肉の策をどのように実現させるか考えろ!」

 格好をつけているが、この苦肉の策の発案者である俺はまったく何も考えていない。駄作とも言える作戦を実現に移すためには、家臣を使った方が効率もいい。俺が出る幕はもうすでにないのだ。

 小十郎、景頼、成実が会議の中心にいた。特に小十郎はビシバシと意見を述べていった。そして、小十郎の作戦が採用された。忍者を一人、蘆名の城へと向かわせる。その忍者に、援軍要請の書状を探し出させ、細工を施させる。細工を仕掛け次第、俺が新たな書状を書いて蘆名に送る。その書状を見た蘆名は、必ず援軍と謝罪文を送ってくるはずだ!

 忍者に細工させる内容については、後述するとしよう。俺は忍者を送り出し、援軍が来るまで持ちこたえるように軍を編成した。夜の奇襲にも備えて、見守りの兵も置き、半径1キロメートル程度を警戒させた。


「若様。お疲れではないですか?」

「小十郎か。忍者からの吉報を今か今かと待ち構えていたら疲れてしまったんだ」

「さようですか」

「......神辺」

「どうした、名坂?」

「景頼に逆心の疑いがある」

「屋代が? まさか......」

「あいつは江渡弥平と繫がっている。確実に」

「何でそうやって言い切れるんだ?」

「煙草。そう、煙草の臭いだよ」

「煙草?」

「煙草は鉄砲の伝来とともに日本に伝わった。鉄砲の伝来は1543年。覚え方は『以後(15)、資産(43)増える鉄砲伝来』だ。つまり、すでに戦国時代の世には煙草はある。だが、景頼の体から煙草の臭いがする」

「何がおかしいの?」

「あの煙草は、俺が前世で愛用していた『ななぼし』という煙草の臭いだ。で、七つ星は平成に入ってから発売開始した商品だ」

「ってことは、景頼は未来人ってこと!?」

「かもしれない。以後、景頼には警戒しろ」

「わかった。気をつけておく」

 俺は腕を組んだ。景頼が江渡弥平の仲間だとは疑いたくはない。だけど、七つ星の臭いを俺の鼻が嗅ぎ分けた。無視するわけにもいかない。奴からアクションを引き起こすなら、即ぶち殺す。

 景頼の心の内を知るために、俺は景頼を目の前に呼んだ。

「どうしましたか、若様?」

「貴様を追放する。何故だがわかるか?」

「若様? 何を言っているのですか?」

「江渡弥平の味方か?」

「若様もお戯れが過ぎますね」

「冗談言うと、殺すよ?」

「な、何を......」

「言え、景頼。貴様は江渡弥平と繫がっているのか?」

 俺は刀を鞘から抜き、先を景頼の喉仏に当てた。

「さすが、勘の鋭い若様だ」

「認めたのか、景頼!」

「認めてはいません。本日は若様のために、真実をお話しましょう」

 景頼は平伏させた頭を上げて、立ち上がった。

「景頼、貴様! 殺す!」

 刀を握る力を強め、喉に剣先を押し込んでいった。血が垂れる。

「私は若様のために存在しています。私としての、若様への教育はこれで終わりのようです」

 景頼はため息をついて、俺の目をじっと見つめた。景頼は最期の瞬間に命乞いもせず、俺の目から焦点をずらさずに目を閉じた。俺は刀を振りかぶる。刀が喉を貫こうとした時、小十郎が走って駆け寄ってきた。

「若様! 吉報です! 忍者が書状への細工を完了したそうです!」

 俺は刀を鞘に収めた。

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