伊達政宗、輝宗を殺すのは伊達じゃない その参捌

 さて。俺は体が完治するまで休むことになった。それまで何をすれば良いのやら。そう考えていると、鍛冶屋の権次と兼三を思い出した。そして、休暇きゅうか中は新たな武器開発に着手しようと決めた。

 まずは権次と兼三を呼び出す。そして、俺が特注した刀を戦場で使っていた景頼も一緒に部屋に招き入れた。

「皆に集まってもらったのは他でもない。新たな武器を作りたいんだ。しかも、より強力なもので」

 すると権次が、ニヤリと笑った。「若様、良い提案ですね。そういうことなら全面的に協力しましょう」

「良いのか?」

「更なる強力な武器の追究ついきゅうが、我々吹屋ふきやの役目ですぜぇ」

 鍛冶屋は、この時代だと吹屋とも言ったようだ。くわしくは知らんがな......。

「まず、景頼にやってもらいたいことがある」

「何でしょうか?」

「俺があげたあの刀を、もう一度振り回してくれないか?」

「それは良いのですが、何を壊せばいいですか?」

「景頼は俺と戦うんだ。その戦いで、景頼の武器の改良点を権次や兼三に見つけてもらいたい。もちろん、景頼は手を抜くな。体がなまった俺の運動にもなるからな」

「しかし、若様はまだ完治しておりません!」

「構わない。骨が折れるくらいなら、まだ死なないから」

 それから数十分をついやし、景頼を説得した。景頼がうなずいた時、俺はすでに疲れていた。

「んじゃ、皆外に出ろ」

 景頼のあの武器にまともに戦える武器は、切れ味の良い刀より頑丈がんじょうな刀だ。改良点を見つけるためには防御壁は使えない。あの相手に見合った武器を選ぶのがコツだ。

 頑丈な刀は分厚い刀。切れ味が良い刀は薄い刀。刀身、つまり刀の中央を除く厚みを肉置にくおきと言う。肉置が厚ければ頑丈、肉置が薄ければ切れ味が良いわけだ。

 肉置を薄くして切れ味を良くさせている刀もあるが、景頼のあの武器には歯が立たない。頑丈な刀が必要だ。

 こういう場合に備えて、極限まで肉置を厚く作らせた刀がある。

 景頼の刀は切れ味こそないが相手を潰すのには有効。対して俺の刀は、頑丈さは景頼の刀には及ばないが、切れ味なら負けない。しかも、鉄の不純物を残し、あえて炭素も混ぜた。かなり硬い刀となった。重さでも負けぬようにと、神力によって圧縮した鉄を内部に流し込んだ。

 この刀なら負ける気はしない。刀の名前は燭台しょくだいぎり! 史実での政宗の愛刀は燭台しょくだいぎり光忠みつただであり、『燭台切』の名の由来にした。

 この燭台切の剣先が鉄塊に触れただけで、燭台切の重さにより鉄塊が真っ二つになるほどの力だ。

「行くぞ、景頼!」

「はいっ!」

 景頼が刀を振り回した。俺はすき間をぬって懐に入ると、燭台切の剣先を燭台切の刀に当てる。景頼はそれに反応し、距離を取った。

 燭台切の真骨頂しんこっちょうは、刀自体の重さで斬ることにある。力を加えずとも切れる。これが景頼の刀との違いだ。重さばかりが良いわけではない。切れ味と重さが良い塩梅あんばいになってこその、燭台切だ。

 燭台切の重さによる一撃は、空中から振り下ろすのが良い。俺は空高くジャンプをし、思い切り振り下ろす。景頼は刀を両手で持ち、俺の一撃を受け止める。

「やるな、景頼」

「若様こそ」

 ここまでは燭台切だけの重さによる攻撃。ここからは俺の体重も燭台切の剣先に集中させる。景頼の刀自体を壊してしまえば、こちらの勝ちになるわけだ。

「くっ!」

「その程度か、景頼?」

 かん一髪いっぱんで景頼は俺の軌道きどうを反らさせた。俺は顔面から地面に落ちた。

「痛っ! イタタタタ」

 鼻血が出たかと思ったが、それほどじゃなかった。俺は安心して、燭台切を握る。次は俺の体重を加えてよこ一文字いちもんじに切ろう。

「俺の勝ちだ、景頼!」

 俺は格好良くかがみ、横に切った。景頼は刀で防ごうとするが、俺の刀に押されて体勢を崩して床に倒れた。景頼の刀が重くなければ、このように体勢を崩すことはなかっただろう。最大の弱点は、重さだな。

「さすが若様! 負けました」

「なぁに、弱点を利用して勝ったまでだよ」

 俺は燭台切を鞘に収めた。それから権次と兼三の元へ行き、景頼の刀の改良点を尋ねた。

「若様」兼三は疑問をていした。「景頼殿の刀を改良するより、若様の刀を改良した方が早くないですか?」

「......おぉ、言われてみればそうだな!」

 ただ、この燭台切は量産したくない。ヘッポコ主人公が持つ唯一のチート級能力として、大切にしておきたいのだ。

「この刀は量産したくない。当初の目的通り、景頼の刀を改良しよう」

 権次は挙手をした。「景頼殿のあの刀の最大の弱点は、若様の言うとおり重さにあります。重さがあの刀の優れた点であると同時に、弱点にもなり得る。この改良を最初にした方が良いでしょう」

「どうやるんだ?」

「今のところ、そういう案はありません。ですが、必ず改良方法を見つけ出します」

「頼むぞ」

 権次と兼三は景頼の刀の改良点を列挙していった。俺が完璧だとして作り上げた刀だが、ここまで改良点があるとへこむ。

 ショックを隠しつつ、四人で改良点を見つけていった。その点を改善して、権次の手によって設計図が書かれていく。俺はその作業を感心しながら見ていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る