伊達政宗、輝宗を殺すのは伊達じゃない その参玖

 権次が設計図を書き終えると、兼三がその設計図を受け取った。「では、この設計図を元に新たな刀を作り上げてきます」

 頭を下げた兼三は、設計図を持ちながら消えていった。

「景頼!」俺は燭台切を景頼に渡す。「次は景頼がその刀を使って、俺と斬り合え」

「若様はどんな刀を使うのですか?」

「景頼がさっき使っていた刀だ。その刀に名前はあるか?」

陽月ようげつざんと名付けております」

「そうか。その陽月斬を俺が持ち、景頼が燭台切を持つ。んじゃ、勝負を始めようか!」

 景頼の陽月斬を持って握った。これは相当重い。燭台切が勝つわけだ。この陽月斬の真価を発揮出来るのは、俺だけだ。防御壁と併用してみよう。

「景頼。これは改良点を見つけるための戦いではないから、俺は本気でやるからな!」

「幼き頃に将棋ばかりしていた若様がどれほど成長したか、楽しみです。私も本気でいかせてもらいますよ!」

「おう! 燭台切をうまく使いこなしてくれよ」

 俺は景頼と剣を交えた。俺は陽月斬にて奮闘ふんとうするが、触れるだけで鉄塊を切り裂く燭台切に勝てるはずはなかった。だから防御壁を使って、当主の意地で勝利した。

「さすがは若様。負けるわけです」

「いや、小細工をしなければ景頼が勝っていたよ」

 この燭台切に、景頼の陽月斬さえあれば、神力を使わずとも戦に勝てるだろう。つまり、アーティネスに頼らなくても大丈夫になる。そうなれば、レイカーの言うとおりにアーティネスを倒しても問題はない。神力がなくなって防御壁が使えなくなっても、燭台切がある。

 次に俺が参戦する戦までに、弓矢の強化もしておきたい。そうしたら無双出来るな。ただ輝宗は俺が作ってやった拳銃を量産しようとしていたし、優れた武器には注意が必要!

 それに、まだ輝宗を生かす方法がわからない。ホームズをどう利用するんだ?

「若様、ゆっくり休んでください」

「あ、ああ。すまんな、景頼」

 俺は痛みを表情に出すのを我慢し、部屋に戻った。完治するまでにやりたいこともあるし、戦いが多かったからやれなかったこともある。そういうことをやっていこう。

 やりたいこと......。あ、景頼が言っていた将棋は、最近はしていなかった。軽い息抜きのために、将棋でもしてみよう。相手は小十郎以外に考えられん。

「小十郎! 小十郎はいるか!?」

 その後、小十郎と将棋を指すこと数時間。決着が付かぬまま、夜になってしまった。決着はおあずけである。


── 一ヶ月後

 俺は完治した。胸もまったく痛くない。これなら、戦をやっても安全だ。輝宗に報告に行こう。

「父上!」

「政宗か?」

「はい」

 俺は扉を開けて部屋に入り、頭を下げた。

「治ったのか?」

「完治しました。これなら戦に戻ることが出来るでしょう」

「これで一安心だ」

 輝宗は胸をで下ろした。『撫』という漢字から連想される伊達政宗のことと言えば『で切り』。政宗は何人もの敵方を殺していった。俺はそんなことはしたくないが、史実通りにするにはやるしかないのか。避ける方法を、これから考えていこう。

「では、早速戦に参りましょう」

「本日にか?」

「いえ、明後日みょうごにちにするつもりです」

「さようか」

「はい」

 景頼の陽月斬を改良した、陽月斬・改も完成している。燭台切もちゃんと手入れしてきた。今回は負ける気がしない。

 一つ気がかりなのは、敵方が硬い鎧を装着していたことだ。江渡弥平が未来の技術によって硬い鎧を作り、戦国時代に流通させていたのかもしれない。鎧の入手ルートを洗ってみる価値はあるな。

「では、父上。失礼いたします」

「うむ」

 部屋を出ると、戦の準備をするように家臣に伝えた。景頼には陽月斬・改を持たせた。成実は、以前俺が渡した刀をまだ使っている。小十郎は最前線には行かせない。奴に戦は向いていない。

 仁和も軍隊の中央付近に配置。忠義と二階堂は前方と後方に、それぞれ割り振った。もちろん、二人の目下の部隊は二人に付ける。

「非常食の用意をもっと早くしろ! 明後日に間に合わんぞ! 急ぐのだ!」

「「はっ!」」

 ウルトラウィークの手入れもしておこう。小十郎いわく、体調は良いらしいから心配はいらんがな。

「よう、ウルトラウィーク!」

 久々に元気な飼い主(俺)を見て嬉しかったのか、ウルトラウィークはヒヒーンと鳴いた。

「ヒヒーン? 何言ってるかわからんぞ」

「ヒーン」

「舐めてるな、お前」

 体を洗ってやり、餌を与えた。それを見守り、城に戻って戦の準備を再開させる。

 槍の手入れもした。手入れをなまけていたから、使い物にならないものもあったが、基本的に槍は数本あれば事足りる。槍が折れれば燭台切を使えば良いし、さもなくば弓矢や拳銃がある。槍はリーチの長い長柄槍だし、強度も上げている。そんな簡単には折れない。

 武器に関する知識も権次と兼三のお陰でついてきているから、戦場で武器を改良することも可能。これで江渡弥平らが流通させているかもしれない二十一世紀の武器や防具と、互角ごかく以上に戦える。黒幕である江渡弥平と戦う日も、そう遠くないはずだ。

 俺は歯を食いしばって、身構えた。

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