伊達政宗、輝宗を殺すのは伊達じゃない その参漆

 目が覚めると、見知らぬ天井が視界に入る。起き上がると、治療室にいた。そして思い出す。俺は戦場で刺されたんだ。

「戦は! 戦はどうなった!?」

 俺の叫びに誰も反応はしなかった。仕方ないから体を起こし、出口を確認する。刺された部分は痛いが、この程度なら我慢は出来る。

 胸を押さえながら、猫背のような体勢で治療室を出る。今はあの戦から何日が経過したのだろうか。

 長い廊下を抜けて、小十郎の部屋に到着する。重い扉を開ける力は俺はなく、やむなく扉を破壊した。この扉は重いが、それに対して耐久力は低いのだ。

「名坂! 動いても大丈夫なのか?」

「ああ、それは大したことはない。それより、俺が負傷してから何日が経過したんだ?」

「何週間から一ヶ月程度、かな」

「そんなにか!」

「まあね。その間だけは輝宗が指揮をして戦を進めていた」

「そうか。なら、この怪我が治るまでは、俺は安静にしているとしよう」

 小十郎は苦笑した。「思う存分休むと良いよ。成実と景頼を呼んでくるか?」

「まずは輝宗と愛姫に会いに行こうと思う。この時代に合った行動をするべきだからな」

「んじゃ、頑張れよ」

「おう! ──痛っ!」

 急に激しい行動をしたら、痛くなってしまった。胸が貫かれた記憶があるが、こうして生きているんだからそれは記憶違いだろうな。

 俺は輝宗が鎮座ちんざする部屋に入り、ひざまづいた。

「政宗! 治ったのか!?」

「はい、父上。何とか動けるくらいにはなりました」

「そうか。では、楽な姿勢になってよい」

「では、失礼して」

 俺は姿勢を崩した。

「父上。私はこの傷が完全に治るまで休みたい次第です」

「良いのだ。それまでは指揮をする。政宗は奇跡的に死ななかったみたいだしな」

「へ?」

「刀が政宗の胸を貫いていたのだ」

 マジかよ! ってことは、本当に生きていたのが奇跡みたいなものか。

「──では、失礼いたします」

 俺は頭を下げて、部屋から立ち去った。次は愛姫に会いに行く。最近は愛姫と会っていなかったから、また怪我をして怒られそうだ。

 愛姫の部屋は、確かあそこだったか。俺は廊下を進んで、愛姫のいる部屋に足を踏み入れた。

「愛姫!」

「わ、若様!」

 愛姫は涙ながらに立ち上がり、俺に近づいてきた。

「泣くな、愛姫」

「ですが、若様が胸を貫かれたと聞いたら、誰でも死んでしまったと考えますよ! 若様が死なずにこうして動いている状態を見れて、私は嬉しいです!」

「まだ痛いと言えば痛いが、死ぬことはないだろうよ。だから安心しろ」

 俺がはげまされたかったが、まさか愛姫を励まされる側になるとは思いもしなかった。正直、傷口をえぐられた気分だ。

「若様、どうかこれからも死なないでください。そして、若様の望む世界にしてください」

「そのつもりだ。俺の望む世界を、愛姫に見せてやる。異国に進行する時も、俺のかたわらにいると良い」

「ありがとうございます。いつまでも、私を傍らに置いておいてください」

「ああ」

 俺は愛姫を抱きしめて、それから小十郎の元へ戻る。奴はすでにくつろいでいて、寝そべりながら仁和から貰った漫画を読んでいた。

「俺が大変な時に呑気のんきな奴だなぁ!」

「お、帰ってきたな。成実と景頼を呼ぶぞ」

「そうしてくれ」

 小十郎は成実と景頼を引き連れて、部屋に帰ってくる。

 成実はそでで涙を拭い、俺にしがみついた。「良かったです、若様! 治って良かったです!」

 するとさすがの俺も、成実に引っ張られて傷口が痛くなるわけだ。「イタタタタタタ!」

「すみません、若様!」

「あ、安心しろ。俺は成実のお陰で無事だぜ」

 成実は取り乱しつつ、背筋をピンと伸ばして俺を見た。「若様を乗せて走った馬が早かったため、何とか間に合いました」

「早い馬? 名前はどんなのだ?」

「サイカイテイオーです」

 その名前を聞いた小十郎は、飲んでいたお茶を吹き出した。そこまで笑うことでもないだろ!

 馬にトウカイテイオーという有名なのがいる。東海帝王をもじり、西海さいかい帝王とした。つまり、サイカイテイオーである。

「サイカイテイオー、走るの早かったんだ。名前を付けた時は、そうは感じなかった。今度、俺が乗って試してみよう」

「そうすると良いでしょう。あの馬は若様のために、急いで走ったのです」

「いや、成実の手腕だと思うよ」

 俺が成実と握手をすると、次に景頼も握手を求めてきた。「若様、無事でなりよりです」

 そうしている横で、小十郎は吹き出したお茶を拭いていた。何やっているんだ、まったく......。

「俺達の代わりに戦場で力を発揮していたと耳にした。良くやってくれたよ、景頼」

「いえ、あれは若様が特注してくれた刀があったからです。それに、若様から教わった体の構え方も」

「構え方は景頼が体得たいとくしたものだ。景頼の頑張りが実っただけだよ」

「そう言っていただけると、嬉しいです」

 小十郎はお茶を拭き終わり、フゥ、とため息をついた。というか、俺は小十郎が笑うほどネーミングセンスがないのか? ウルトラウィークという名前もサイカイテイオーという名前も、小十郎には笑われた。安静にしている間に、ネーミングセンスはみがけると良いが。

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