伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その陸零
まあ、師弟云々の話しはこの際どうでもいい。こうして私は一応ではあるものの、魔女教ではそれなりの地位を得た。あとは感情を手に入れるためにキリシタンやその他の敵対勢力を殺し、その脳を食らえば良い。何と単純なものだろうか。
そうして、私は暴食の罪人となってからも人をたくさん殺した。そしてなぜか、普段通り過ごしていた時に生命の魔女様から呼び出された。用件は何だろうと考えつつ、生命の魔女様の部屋を訪ねる。
「暴食のカルミラ、参りました」
「入ってくれ」
「はっ!」
「堅苦しいのはなしだ。私はこれより手頃な山に小屋を建て、そこで情報収集に徹するように教祖様から言われた。なのでここを発って情報収集を行うまでの数日間は、カルミラの感情の有無について研究したいと思っている」
「数日調べただけでは、私の感情についてくわしくはわからないと進言いたします」
「ふむ」生命の魔女様は椅子から立ち上がる。「なぜ数日程度の研究で私がわからないと思うのだ?」
「以前、医者に診てもらったことがあります。その時には先天的に前頭葉の一部が損傷している、とだけ言われました」
「前頭葉? なるほど、私がカルミラを調べても前頭葉が損傷しているから感情がないという結果しか出ないと思っているな?」
「違うのですか?」
「ああ、違うよ。確かに前頭葉が欠損しているから感情がないのだろうが、なぜ前頭葉が欠損すると感情がないのかなどがわかる可能性もある。または前頭葉のどの部分が欠損していると感情がなくなるのか──これは教祖様に頼んで捕虜を実験体としよう。猿などの類人猿を実験体にしてもいいが、捕らえるのが厄介だ」
端から見たら怖い会話内容だ。しかし私はすでに脳を何度も食べている。誤ったとは言え人丹も口にしている。今さら『捕虜の脳味噌をかき回そう!』などと目の前で言われても、私は『へー、新しい娯楽になりそうだ』としか思い浮かばない。
「それで、私の脳をどうやって調べるのですか?」
「ん? 調べると言っても捕虜の意識がある内に脳味噌をかき回して、その時の捕虜の感情などを調べる実験に参加してくれるだけで構わない。まあ貴重な捕虜の無駄遣いは良くないな。まずは犬でも捕らえよう」
「わかりました。その実験に参加します」
「それは助かる」
それから生命の魔女様、もといエヴァ様は犬を実験体にして脳味噌をかき回した。しかし犬は人間より脳味噌が異様に小さく、実験はしづらい。なので犬より脳味噌が大きいオオカミなどが捕まった時、エヴァ様は大喜びでオオカミの額に穴を空けて前頭葉をかき回していった。
そうして前頭葉のどの部分が傷付くと感情がなくなって大人しくなるのかの見当が付くと、次は実験体を捕虜に変えた。すると実験体にされた捕虜の一人が奇跡的に一命を取り留め、今までの気性の荒さがどこへやら、非常に大人しくなった。今回の人間を対象にした実験での唯一の成功例である。
言わずもがな、この実験はロボトミー手術と後世で呼ばれるものだ。
そんな実験を数日続け、ついにエヴァ様は情報収集のために出発することになった。
「カルミラ、お前との実験はなかなか有意義であった」
そう言う彼女の手には火の付いた煙草が一本握られていた。
「私もです」
「煙草もおいしいし、情報収集も退屈にはならないと思う。そうそう、煙草と言えば火だが、寒い季節になったが室内で火を扱う際は気をつけろ。火は酸素を取り込んで二酸化炭素を排出するからな。室内を締め切っていれば二酸化炭素が室内に充満する。煙草のように二酸化炭素に臭いがついているわけじゃないから、定期的に換気しろよ」
「火が酸素を取り込んで二酸化炭素を排出するならば、火も生きて呼吸をするみたいですね」
エヴァ様は少し考え、途端に笑い出した。「面白い考えだ。覚えておくとしよう。お礼に情報収集をしながら面白そうな話しをいくつか集めてみる」
「ありがとうございます」
「ああ。ではまたな!」
私が手を振るとエヴァ様はこちらを向かずに大きく手を振り、すでに姿は見えなかった。それでもエヴァ様が向かった方向を眺めていると、後ろからセシリア様が話し掛けてきた。
「どうやら強欲の罪人・エリアスと剣崎庵が裏切ったようだ。エリアスは情報収集に長けているだけではあったが、防御に関してもあの
七人の大罪人の一角を始末。これは好機だ。自分と同じ最高幹部のいずれかの脳味噌を食らってみたいと思っていたところに、ちょうどエリアスが裏切った。
彼は自衛に対して最強と言っても過言ではない特殊能力を持つが、そのお陰で私の好敵手となり得る。敵としては悪くない相手だ。
「引き受けましょう。して、二人の位置は?」
「魔女教の情報網のほとんどはエリアスによるものだった。だからか、奴らの正確な位置はまだわからん。エヴァの奴が情報収集のために魔女教の本部を発ったのもエリアスの裏切りが原因だしな」
「わかりました。エリアスらを追いかけ、必ず殺してみせましょう」
「ふっ! やはりエリアスの脳に興味があるか。正直なのは褒めてやる」
「では準備をして直に追います。短刀を数十本用意出来ますか?」
「容易いことだ。カルミラのことだから負けることはあっても死ぬことはないだろう。火急の事態ゆえ、速やかに任務を遂行するように!」
「わかりましたっ!」
この後エリアスに追いついたカルミラは伊達政宗と相対し、そして彼の血や臓物の温かさに触れ、
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