伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その肆肆

 ホームズはほくそ笑み、慧を観察する。「いや、驚いた。僕が生涯で見てきた女性の中で、これほど男性と見間違えるほどの容姿を持った人物はいなかったよ」

「ハハハ」慧は苦笑いをし、多少のショックを受ける。「よく言われます......」

 体の線は細いくせに胸板は妙に発達していると思ったら、何と女だったというありがちな展開。ベタ過ぎるだろ。しかも男なら誰もがうらやむであろう美少年の容姿を持っている。こいつは女ではなく男として生まれるべきだったな。

「ってか」俺はあることが気になって会話に割って入った。「ホームズはあんまり女の人を見たことがないんじゃないか? 恋愛とかそれに準ずるものは嫌いなんだろ?」

「そうだね、嫌いだ。というか興味がない。嫌いではないにしろ、好きではないのは確かだよ」

 ホームズは俺の知りうる限りの外国人の中で顔立ちは非常に良く、男ならばそのダンディーな部分に憧れてしまう。つまりモテないわけはない。なのに女とはあまり付き合わないところを見ると、本人の言うとおり興味がないのか。

「おい慧! お前から見てホームズは格好良いか!?」

「ええと、イタリア人だった僕の父の美的感覚からするとホームズさんはかなり美男の部類に入ると思いますよ?」

 イタリア人からしてもイケメンなホームズ。なのに女には興味ないし交際もしないとか、どんだけ硬派なんだよ。ホームズのツラさえあればハーレムも夢じゃねぇのに。

「ま、ホームズのことは関係ねぇか。ホームズが無駄に格好良いのは気に入らんが、明日は早朝から寺への移動を開始するからな。これからやることは決まってるぜ!」

 仁和は布団を引っ張り出してきた。「ちゃんと寝ることですよね」

「いいや、久方振りの休みだ。ここいらで羽目を外そう。お前ら、枕投げって知ってっか?」

 人数分の布団と枕が用意されているとなると、やることは一つしかない。枕投げとかやって寝ずに夜を明かす。今から楽しみだ。

「はあ。仕方のない方ですね」

「どうかしたか、仁和?」

「政宗殿がすぐに寝たいと思うようなことを言って差し上げましょう」

「言葉くらいで俺が寝るはずが──」

「イルカの睡眠時間は実質ゼロです。寝ている間に敵から攻撃されないように右脳と左脳を交互に眠らせているので、イルカは寝ずに常時動けます。逆に天敵のいない動物の睡眠時間は、イルカなどの睡眠時間の短い動物に対して圧倒的に長いです。つまり、あまり寝ない動物は天敵から身を守るために起きていて、長く寝る動物(人間など)は天敵がいないからこそ安心して夢を見られるのです。環境によって天敵がいなくなった動物もいますが、人間が長く寝るのは人間が強いからなのです。

 そして寝ないと言った政宗殿は必然的に天敵からの攻撃を恐れていることになります。弱い故に政宗殿は寝ないという答えが導き出されましたね」

「......お、俺は強いから寝るとしよう」

「良い判断です」

 俺の性格を熟知した上で動物の睡眠時間の違いについて説き、寝るのが強い者の証だと負けず嫌いの俺に教えた。そうなったら、もう俺は寝るしかない。さすが頭の回転が伊達氏家臣でピカイチの仁和だ。

「すごい、すごいです! 仁和様が少し説得しただけで頑固な主様が素直に布団に潜るとは!」

 こうして枕投げをするという俺の夢は実現せず、翌日がやって来た。日の出がまぶしいが、迷った時などに太陽は道標みちしるべとなる。毎朝ちゃんと時間通りにのぼるとか、太陽はくそ真面目だ。実際は地球がくだるわけだが。

 気持ち良く目を覚ました俺は日時計で大体の時間を確認する。出発にはまだ早いし、全員が起きているわけじゃない。どうやって皆が起きるまで時間を潰そうかな。

 すると慧がムクリと起き上がったので、話し相手になってもらった。

「錬金術って難しいのか?」

「仁和さんや藤堂さんみたいな知識を持っていれば、さほど難しいというわけではありません。ですが一人で錬金術をやるには体力も必要になるので、僕は両親と死別してからはまともな実験はしていませんが」

「悪いことを聞いたな」

「いえ、問題ないですよ。父から錬金術を習った時にはすでに覚悟が出来ていました」

「ぶっ倒してやろうぜ、キリシタン宗の奴らを!」

「そうですね」

 俺は目を合わせて慧と会話をしている途中で、キリシタン宗の奴らが持っていた高純度の鉄のことを思い出した。

「そう言えば錬金術師達は鉄の純度。どうやって上げているんだ?」

「鉄の純度? そんなの長く熱して炭素を酸化させれば簡単に鉄の純度を上げられますよ。高純度の鉄は僕の力でも加工しやすいので好んでやってる感じです」

 俺は藤堂が寝ている間にバテレンが持っていたという高純度の鉄塊を慧に渡した。

「炭素を酸化させるだけでその鉄塊みたいに高純度になるのか?」

「い、いや、無理ですね。この鉄の純度は高すぎます。不純物が無さすぎて非常に軟らかいですし......」

「それはバテレンが所持していたものだ。それだけキリシタン宗の保持する技術力は高いんだろう。油断は出来んぞ」

 慧ですら驚く純度の鉄塊。なぜそんなものをバテレンが持っていたんだ。ただ単にキリシタン大名とかへの献上品なのだろうか。軟鉄は加工しやすいから献上品には持ってこいではあるが。

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