伊達政宗、悪運の強さは伊達じゃない その参
クマの解体を終わらせた仁和に近寄って、
「さすが、解体まで出来るんだな」
「ええ。それと、これはヒグマです」
「種類までわかるのか!?」
「見分けるのは簡単なんです。日本にいるクマはツキノワグマかヒグマの二種類です。ツキノワグマの胸には月の輪、つまり半分の輪の模様があります。このクマにはそれがないので、容易にヒグマだと見当が付きます。
また、ツキノワグマはヒグマに比べて細身で毛色も濃いので模様を見なくても見分けられます。見慣れているものでして」
「ほー、なるほどな」
「ちなみに、ヒグマは刺されて倒れても、死ぬまでは暴れます。それがなかったということは、政宗殿は一撃でヒグマを仕留めたということですね」
「仁和が言うのならそうなんだろうな。というか、ヒグマの肉はうまいのか?」
「調理も私がしますので、味は保証しますよ」
「仁和は料理がうまいもんな」
あれ、俺って仁和に勝てる部分が少ないような......。刀で戦うなら仁和には勝てるが、それ以外は秀でた部分がまったくない。俺は戦闘以外に優れていないと改めて知り、頭を抱えた。
ある程度気持ちが落ち着くと、俺は肉片を手に取る。
「料理、手伝おうか?」
「良いですよ。私の料理の
「なっ! 俺が料理下手くそみたいじゃねぇか!」
「え!? 下手くそじゃないんですか!?」
「
「まあ、人出は多いにこしたことはないですから、政宗殿にも手伝っていただきますよ」
「ああ」
小十郎に刀の
「ってか、料理を出来るほど道具がそろってんのか?」
「はい。こういう時の場合を想定しておりましたから。料理道具一式はそろっていますよ」
「準備良いな」
仁和はまず、血抜きを行った。内臓はすでに取り出しているから、あとは吊して血を抜けだけである。早く血抜きをしないと、生臭くまずい肉になってしまうようだ。くわしくは知らんけど。
血抜きが終わると、調理の工程に移った。俺も手伝わされ、包丁を握った。
「仁和、今日はなんの料理を作るんだ?」
「
「鍋か」
「鍋です」
ということは、鍋まで持ってきていたということなのか。用意
「クマの肉以外の具材はどうする?」
「保存食として持ってきているものを使います。それらの心配は無用なので、しなくても良いですよ」
「そうなのか」
保存食を持ってくるのは普通だが、鍋に入れられる具材までを保存食にする必要はない。この参謀は、本当に用意周到だな。
「私が調理をほとんどするので、政宗殿はクマの肉を切っていてください」
「わかった」
料理をすると言っても、クマの肉を切るだけか。なら、最善を尽くそう。一口サイズにカットすれば良いわけだ。そんなの簡単だぜ。
「か、硬い!」
予想以上にクマの肉が硬かった。だから、防御壁を展開して、尖らせた防御壁で包丁を研いで鋭利にした。すると、幾分か切りやすくなった。
全てを一口サイズに切り終えると、俺は何をすれば良いのか仁和に尋ねた。
「料理は終えてしまったので、好きにしていてください」
「もう終わりか?」
「そうです。政宗殿が切り終えるのが遅かったのでしょう」
意外と傷付く。しかし、仁和が正論過ぎて何も言えない。仕方なく小十郎にかまってもらうことにする。
「小十郎!」
「料理は終わったのですね、若様」
「まあな。それより、お前は二代目諸刃刃親光を使っているだろ?」
「はい! 権次殿と兼三殿からいただきました!」
「それ使って俺とチャンバラの練習試合をしろ。稽古をつけてやる」
「ありがたき幸せ。承りました」
小十郎は二代目諸刃刃親光を掴み、俺に向けた。良い目だ。成長したものだな。
まずは愛着のある燭台切を抜いた。「練習試合開始だ」
「はい!」
本気でやるつもりもないから、俺は手加減をしながら刀を振り下ろした。すると小十郎は、刀で防御をした。
「待て、小十郎」
「どうしましたか?」
「お前は筋が良い。練習試合をするより、直接戦い方を教えた方がわかりやすい。よし、着いてこい!」
「わかりましたっ!」
俺は誰もいない場所まで来て、俺は刀を両手で握る。
「良いか、神辺。刀を振り下ろす時はこうするんだ」
「難しいな」
「落ち着け。神辺はかなりうまいから、すぐにでも刀の達人になれそうだ」
「なれると良いけど、僕は頭だけだからなぁ」
「安心しろ。俺を誰だと思ってんだ!」
「え? 名坂じゃないの?」
「そっちか。前世の方じゃなくて、現在進行形で俺は何者だ?」
「ああ、そういうことか! 伊達政宗だね」
「そうだ。現在進行形の伊達政宗。絶賛苦悩中だ」
伊達政宗だからって出来ないことがないわけじゃない。ただ、前世の時よりは出来ることの幅が広がった。小十郎の刀の腕を向上させるくらい、難しいことではない。
仁和や権次、兼三に協力してもらえれば小十郎に適した刀も作れる。そうしたら、もっとマシに小十郎も戦えることが出来るはずだ。今度頼んでみようかな。
その時、隊が集まっている場所の方向から声が聞こえた。「夜盗だ!」
隊は俺達がいない間に夜盗に襲われたようだ。
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