伊達政宗、悪運の強さは伊達じゃない その肆

 おいおい、夜盗に襲われたのかよ。最近は物騒だな、まったく......。馬とか取られたら移動出来んから大変になるし、夜盗を討伐するしかないか。

「神辺、夜盗を倒しに行くぞ!」

「ああ、わかった」

 野宿をしていた場所に戻ると、身なりからして俺の家臣じゃない奴らが数十人いた。その内、指揮をしている人物を叩き潰すか。

「俺はリーダーと思われる奴を倒すから、お前は他大勢を倒せ」

「了解」

 俺はリーダーに向かって石を投げた。すると、顔面に石が直撃したリーダーは怒った顔でこちらを見た。

「貴様ぁ!」

「俺を倒してみろ、ザコがっ!」

 まずは燭台切を持ってリーダーに歩み寄る。

 リーダーも刀を握り、剣先を俺に向けた。「俺の刀の方が長い。貴様がこの間合いを詰められるわけがない」

「はぁ? そいつは槍じゃなくて刀だぞ。長いから良いわけじゃない。槍と違って刀は振り回して攻撃はしないし、踏み込みが必要になる。そもそも、テメェみたいな自己流の構え方は駄目だ」

「あぁん?」

 リーダーは刀を振り下ろした。俺はそれを燭台切で防ぎ、振り払った。

「もう一度言うぞ。自己流の構え方だと俺にダメージを与えることは出来ない。それに、刀ってのは元来がんらい、接近戦で使うもんなんだ。死ぬのにビビって長くしてんじゃねぇよ。刀を鞘から抜いたらな、相手に接近戦を挑んでいるのと同じだ。命が惜しい思っている、武士の精神がない奴は刀を握るな、恥さらしが」

「この野郎!」

 俺の挑発に乗り、リーダーは接近戦に応じて間合いを詰めてきた。距離が近くなったので、俺は容赦ようしゃなく相手の刀を折った。

「なっ!」

「もろい武器を持つのは命取りだぜ?」

 そのままリーダーの骨をくだいて動けなくしようと思ったのだが、横槍が入った。夜盗の誰かが俺を狙って火縄銃を撃ってきた。

 横なのに火縄、なんて冗談は言っていられない。火縄銃を撃ってきた奴を探した。目を凝らすと木の上で火縄銃を構えていた奴を見つけたが、あいつも夜盗の一味だろう。

 指令塔であるリーダーを先に倒すのが正攻法だけど、火縄銃という脅威きょういを無くそう。俺は木に飛び乗った。

「テメェが持っている武器は火縄銃だけか? 接近戦じゃ火縄銃は役立たずだぞ」

「くっ!」

 火縄銃で遠距離から狙ってきたそいつは、火縄銃を置いてふところ刀を取り出した。

「おいおい、それだけしか持ってないのかよ」

「接近戦に適した武器はこれだけです」

「そうか。んじゃ、見逃してやる。逃げろよ」

「へ?」

「へ、じゃねぇよ。抵抗出来ない敵を倒して何が楽しいんだ。胸くそが悪くなるだけだ。良いから逃げろ」

 どうするべきか焦っていたが、結局火縄銃を持って逃げていった。

 さて。後回しにしていたリーダーの元へ戻って、蹴り飛ばしてみた。軽く蹴っただけなのだが、どうやら気絶したようだ。次は夜盗の残党を倒すのみだけど、小十郎がほとんど一掃していた。やっぱり小十郎はきた甲斐がいがありそうだ。

「小十郎、よくやった!」

「いえ、若様が褒めるほどではありません」

 木から地上へ降りて、夜盗が逃げていった方向を指差した。「おそらく、あっちに夜盗達の移動手段があるのだと思う。行ってみよう」

「わかりました」

 火縄銃を持っている奴を逃がさせたのは、夜盗達の移動手段がどこにあるのかを知るためでもあるのだ。

 奥へ進むと、馬が数十頭ほど並んでいる。随分ずいぶんと毛並みが良くて立派な馬だから、多分これも盗んだものなのだろう。

 残党は馬の周囲に集まって、逃げようと話し合っていた。俺はそこへ突っ込んで、刀で斬り倒した。

「騙したな」俺が逃がした火縄銃を持った奴は激怒していた。「許さない!」

「悪いことをしたな。でも安心しろ。殺しはしない」

「!?」

「何で驚くんだよ。生き残った夜盗はうちで働いてもらう。深手を負った奴はある程度のお金を渡すから、それで普通に生活すると良い」

「あなたは有名な大名か何かなのか?」

「んー、有名かどうかはわからない。ただ、いずれ天下統一をする、伊達政宗だ」

「奥州の伊達氏現当主・伊達政宗公であられますか!?」

「そうだ。知っていたのか?」

「はい」

 ある程度は伊達氏の名前が知れ渡っているということか。よしよし、良い調子だな。

「二番目に偉い奴は誰だ? そいつと話しがしたい」

 そうすると、火縄銃のそいつは挙手をした。「我々の中で二番目に偉いのは私だ」

「お前なのか? そうは見えんが」

「よく言われるよ」

「名前は何だ?」

紀子きこ舞鶴まいづる紀子だ」

「紀子? ......お前、女なのか?」

「女だ」

「女なのか!?」

「よく言われるよ」

 中性的な見た目だったが、なぜか男だと思っていた。口調も男っぽいし、声が低いからだろうか。まさか女だったとは想像もしていない。

「すまんな、間違えてしまって」

「いつものことだ。気にすることではない」

「リーダーは現在、動けない状態だ。こちらの仲間になるように、君に説得してもらいたい」

おさが気絶か。わかった。仲間になるように、出来る限り説得してみよう」

「もしこちら側になるならば、冷遇はせず他の家臣と同等に扱う。これから行う戦で活躍すれば、それなりの褒美もあるぞ」

「そのことも伝えておこう」

 舞鶴は夜盗が集まるところへ行って、俺の軍門に降るように説得を試みていた。

 夜盗達一人一人は伊達氏の歩兵よりは腕が立つはずだ。これから二本松城を攻めるから人数が欲しかったし、夜盗達が強いならなおさらだ。舞鶴も鉄砲の腕が良かったから、権次と兼三に特製の鉄砲を作らせてみよう。強くなるはずだ。

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