伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その漆壱

 エリアスが倒れた。ここまで来れば、245番の攻撃方法は俺でもわかる。電気だ。245番が僧兵を一瞬で蹴散らせたのは、僧兵を殴ったり蹴ったりする際に相手に電気を流しているからだろう。

 それにエリアスは骨が常人より硬いだけであり、人体的な構造は人間の枠内だ。つまり感電させて心臓にショックを与えられれば、しものエリアスと言えど死んでしまう。

 ただ、245番が電気をどのように使って球体を飛ばしているかはわからない。それに、なぜ人間を感電死させられるほどの電気を体に流しても、245番はまったく感電死しないのかも不明だ。

 これらのことから、245番に施された仕掛けは体に電気を任意に流せられるものなのは確定であり、感電死しないような仕掛けが体のどこかにある可能性は高い。また、球体による遠距離攻撃は電気を応用したものだと考えられる。

 そして俺は現実を直視する。エリアスにも通じる電気による攻撃で、彼は地面に倒れた。ここまでは良い、ここまでは良いのだが、エリアスが起き上がる気配はない。

「エリアス!」

 俺が名を呼んでも、まったく反応がない。考えたくないことだが、これが現実というものだ。現実とはいつも理不尽なものなのだ。

「宣言する。魔女教断罪執行担当エヴァの名の下に、背信者エリアスは断罪された! これで浄化は完了である! 空席となった強欲の罪人格の席には、後に然るべき後継者に座らせよう!」

 すると0番が憤慨ふんがいしつつ、エヴァの元でひざまずいた。

「エヴァ様、僭越せんえつながらまだ浄化は完了していないと進言いたします!」

「0番、それはどういう意味だ?」

「は! ご説明させていただきます、我らが創造主エヴァ様! まだ劣等人種やそれに準ずる下等生物が目の前で跋扈ばっこしております! エヴァ様が劣等人種を見て目が腐ってしまう前に、奴ら劣等人種を殲滅するべきです!」

「うん? ならば私の目が腐る前にこの場を立ち去れば解決するではないか。わざわざ奴らを殲滅するために労力を割くのが惜しい」

「いえ、奴ら劣等人種は今こうしている間にも子を産んでいます。劣等人種の間に生まれた子は劣等人種であり、もしここで放っておけば何年か後には劣等人種の数が増えてしまいます。この場で少しでも劣等人種を殺し、後世に残る不穏ふおん分子の数を出来るだけ減らしておきましょう!」

 何やら考え込んだエヴァは、顎に手を当てて笑みを浮かべる。そして俺らを見回して鼻で笑い、また0番に向き直る。

「なるほど、0番の言うとおりだ。ではこの場にいる劣等人種の殲滅をもって、浄化完了と見なそう。0番、期待しているぞ」

「恐悦至極に存じます! 期待に応えられるよう、一人でも多く劣等人種を殺して来ます!」

「その意気だ」

 気合いが入った0番は鼻息を荒くし、羽を使って追い風を最大限受けられるようにして俺の方へ加速。飛べなくても羽には使い道があったのかと感心していると間合いに入られ、焦りつつ刀を振り下ろす。

 振り下ろされた刀を羽で受け止めた0番は人間離れした身のこなしで背後に回り込み、首を絞めようと手を伸ばしてくる。それをエコーロケーションによって振り返らずとも察し、俺はしゃがんでから0番の足を払う。

 体勢を崩した0番だったが羽でバランスを取り、体勢を立て直してから何歩か下がる。

「羽が厄介だな」

「劣等人種の分際で気付いたのか。これが我ら新人類と旧人類の違いだ! 貴様ら旧人類は我ら新人類によって蹂躙される! 覚悟しろ!」

「なあ、聞きたいことがあるんだが、いいか?」

「何だ? 言ってみろ」

「多分だけど魔女教信徒にもお前の言う''旧人類''はかなりいると思うんだが? それとお前にとっての創造主(?)であるエヴァだが、あいつだって頭が良いだけの旧人類だろ」

 それを聞いた0番は顔を真っ赤にして怒り、歯を食いしばりながら言い返す。

「貴様ああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!! 創造主エヴァ様が旧人類だと!? ふざけるな、この劣等人種がっ!」

 あ、やべぇ。言葉選びミスったみたいだ。0番が今にも爆発しそうなほど怒りを溜め込み、わなわなと震えながら何度も拳を突き出してくる。

 だが怒っているからか0番のパンチは一つ一つが重いが、その代わりにどこを攻撃するのか読みやすくなっていた。動きが単調になっているのだ。よし、もっと怒らせてみるか。

「おいコウモリ野郎! 俺が洞窟で食ったコウモリが──」

「おいっ! 誰がコウモリ野郎だって!? あ?」

 悪口を全て言い終わる前に0番がブチ切れた。おそらく0番はコウモリと似ていることがコンプレックスだったんだろうな。だから『コウモリ野郎』って単語に強く反応していた。

 とどのつまり、0番はさらに動きが単調になってくれた。そのお陰で一対一でも簡単に倒すことが出来た。良い経験になったよ、ありがとう。

「あ、あり得ない! この私が! 新人類であるこの私が! 有象無象の旧人類ごときに負けるなど! あってはならないっ! 貴様は万死に値する! 私が責任を持って殺してやる!」

 血眼になって俺を睨んだ0番は自分の右腕に噛み付いた。

「なっ!?」

「吸血、吸血、吸血、吸血、吸血っ!」

「何してんだお前!」

 血がべったりと付いた唇を歪ませると、0番は立ち上がってから唇に付いた血を舌で舐め取った。「私は吸血すると力がみなぎるんだ! これで貴様も終わ──」

「死ね!」

 驚くべきことに、ジョーと戦っていたはずのセレナが0番の首を斬り飛ばした。何の躊躇いもなく仲間を殺したことに驚くとともに恐怖していると、セレナは0番の生首をエヴァに渡す。

「ありがとう、セレナ。あなたならそう動くだろうと思っていたよ」

「怒るのは憤怒の罪人オーウェンの役目だ。それに0番は怒りの余り戦闘中にもかかわらず自傷を行った。そんな役立たずはいらないから殺したに過ぎん」

「彼は一応吸血鬼族の真祖なんだが、君は迷いなく殺したね。なぜだい?」

「エヴァ様が今まで0番を生かしていたのは、彼が吸血鬼族の真祖だからだ。それは誰の目にも明らかなことだが、先日彼の力を色濃く引き継いだ吸血鬼の子供が生まれた。その子供がいる時点で、唯一の吸血鬼であった0番に利用価値はなくなる。短気な彼は戦闘向きでもない。再三忠告した自傷を行ったので、ここで処分した。至極合理的な判断だろ?」

「セレナは良い子だね」

 と言ってエヴァはセレナの頭を撫でる。今理解した。なぜセレナが怠惰の罪人なのかを。

 彼女は合理的な考え方によって完璧に動き、無駄を無くした行動をしているんだ。だから怠惰でもある。

 俺はセレナにおびえた。だって当たり前じゃん! カルミラよりセレナの方がよっぽど感情がないよ!? カルミラより怖いよっ!

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