伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その弐零

 母屋に駆けつけると、防弾チョッキや軽くて動きやすい鎧などを装着していた男が愛華を押さえつけていた。防御もさることながら、武器もちゃんと揃えている。手強いな。

 拝借した拳銃は使い慣れていないから愛華に撃ってしまう可能性もあるし、真剣もこのような場合では扱いにくい。体術が一番適切だ。

 間合いを詰めるのは簡単だった。柳生師範から教わった重心の移し方に倣って懐へと入ったので、一撃で金的を蹴り上げることが出来た。

「いやー、股間だけはさすがに鍛えられないだろ? ハハハハハ」

 愛華を救出して安堵していると、急に俺の股間にも蹴りを食らわせられた。

「痛い痛い痛い痛い!」俺は股間を押さえながら床に倒れた。「もげた! 絶対にもげた!」

 俺の股間を蹴った奴は、股間を蹴られて倒れたはずの江渡弥平の回し者だった。男ならば誰でも持っているはずの弱点を正確に蹴ったはずなのに、なぜ余裕で立っているのか。

「貴様、去勢していたのか!?」

「正解だ。かくいうお前は去勢していないようだな」

「ちくしょう、くそ痛い......」

 しかし去勢しているならば、あんな筋肉質になるはずがない。去勢したらもっと余分な肉が付くはずなんだが、どういうわけなんだろう。相当鍛えてきた、ととらえるべきかな。

 そのスキに柳生師範が倒してくれたので、痛みが和らぐのを待って立ち上がった。

「柳生師範、助けていただきありがとうございます」

「いや、名坂少年がスキを作ってくれたからだ。それよりも、股間は無事かい?」

「無事と言えば無事です」

「おやおや? 絶対にもげた、と言っていたではないか」

 俺は苦笑いで応じた。「もげていなかったみたいですよ? ハハハ」

 そんな会話を交えていたら、愛華が汚いものを見るような目でこちらに視線を向けていた。なので、急いで会話の話題を変えるようにうながした。

 その後、今襲ってきた奴らの説明を愛華から求められてしまった。何と説明するべきか迷い、以前の仕事の関係で俺を処分しようと考えている輩の手の者だと思われる、とだけ言っておいた。

「あと二日、俺はあなた方を守ります。俺は二日すれば仲間と合流可能となるので、それまでです。俺が仲間と合流すれば柳生師範達が襲われる心配はないでしょう」

「二日逃げれば良いことなのだろ? それくらいは大丈夫だ」

「守り抜きます。き、金的を狙われた場合は身動きが出来なくなりますが」

「なあに、そんな時はまた助けてやる」

「頼みました」

 こうして、二日間逃げ切るために田舎へ潜伏することになった。また、移動には柳生師範の車が使われた。

 運転席で運転を任されているのは、無論柳生師範だ。助手席に愛華が座り、俺が後部座席で周囲を警戒していた。

 サイレンサー付きの拳銃は護身用として一丁ずつ二人には渡してあるが、それでも俺の手元には二丁残っている。他に手持ちの武器は真剣と木刀、柳生師範の持ってきていた竹刀だけである。車には工具が積んであったが、鈍器として使えそうなものはなかった。

「この車のタイヤは防弾タイヤですか?」

「普通のタイヤだが?」

「タイヤを撃たれたらまずいですね。予備のタイヤは積んでありますか?」

「トランクに一つだけ積んである」

 スペアタイヤ一つとは心もとない。出来るだけ衆人環視かんしの状況にある道を通れば狙撃される心配もないが、果たして江渡弥平達はどんな荒業を仕掛けてくるのか。

「あっ!」俺が目を凝らして後方を見ると、黒塗りの大型車が猛スピードで追いかけてきた。「追われていますよ!」

「では、加速させるぞ! ちゃんと掴まっていてくれ!」

 少し車をいじって細工を施したため、それなりにスピードが出るようになった。だが向こうは加速に特化した車のため、どんどん差が縮められてしまう。

『政宗、大丈夫か?』

「おいアマテラス! 何とかしてくれっ!」

『落ち着け。奴らの武装は刃物や銃火器くらいなものだ。政宗が本気を出せば、数分で殲滅出来るだろう』

「......んじゃ、指示を頼む」

『今はテレパシーしか出来ぬから、それだけはちゃんとやってやる』

 パワーウィンドウを降ろすと、狙いを定めながら拳銃の引き金を引いた。発射された弾丸はタイヤに直撃したが、どうやら防弾タイヤだったようで弾かれてしまった。

「柳生師範、俺は降車します! 車は停めずに速度を保ったまま離れておいてください。すぐに片を付けますので」

「わかった」

 車の扉を開けると飛び降りて、盛大に顔面を床にたたきつけた。皆も覚えておくと良い。走っている電車や車から飛び降りる際は、運動エネルギーの関係で必ず転ぶ。海外のアクション映画とかでそのようなシーンが多々あるが、同じことをしたら死ぬぞ。絶対に着地は失敗する。

「さて。防弾タイヤならばパワーウィンドウも防弾製のはずだ。ただ俺を倒すのが向こうの目標だから、俺が車から降りたことに気付いて奴らは停車させるだろう」

 予想通り車は急ブレーキを踏み、中からは機関銃などを持ったファンキーな連中が姿を現した。下手したら死ぬかもしれんがその時は生き返らせてくれよ、アマテラス。

『復活させるのは我でも骨折りだから、無茶はするな』

「ああ、俺も二度目は死にたくない!」

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