伊達政宗、側近の看病は伊達じゃない その弐

 小十郎は挙手をした。「未来人をどのように調べて発見すれば良いのですか?」

「城内の書物から怪しい文章を見つけ、その民家を一軒一軒あたる。調べる対象の書物は、庶民のことが記載されたものに限る」

「そんな作業を続けるのですか?」

「そのような作業でしか転生者・転移者を発見することは出来ないのだ」

 景頼は頭を下げた。「私は賛成です。江渡弥平のような奴を見す見す逃がすわけには、私の良心が許せません」

「小十郎には申し訳ないが、未来人を探さなくては伊達家だけではなくこの世が終末する」

「若様の意志は良くわかりますが、この小十郎、思うことを発言します」

「ああ、何だ?」

「未来人がどのような脅威を持っているかは、大変わかります。ですが、皆が皆未来人は悪い奴だとは思えません」

 俺みたいな善良(?)な転生者もいるし、未来人は皆が悪い奴とは限らない。だが、実際は江渡弥平のような時代渡来人もいるし、善悪の区別が非常に難しいところだ。

「確かに、小十郎の言うことは正しい。だから、まずは善悪を見極めることだな。江渡弥平タイプの未来人なら、殺処分でもかまわないだろ?」

「はい。殺処分までいかなくとも、江渡のような輩は根絶やしにしなくてはなりません」

「つまり、我々の目的は善良な未来人の保護と邪悪な未来人の追放などの対処を行うことだ」

 こうして、やることは決まった。江渡弥平を倒す。要約すると、まあそんなわけだ。

 小十郎と景頼に書物を大量に持ってこさせ、部屋に入れた。書物を床に並べさせ、俺も床に腰を下ろす。

「未来人の疑いがある城下町の奴らを紙に書き出していけ。少しでも疑いがある奴なら徹底的に調べる」

 二人は首を縦に振った。

 書物は検地などの公の文書を中心としている。城下町の者の名前がちゃんと署名してある。そして、その署名された名前と城下町の一人一人の職業を照らし合わせて新参者など怪しい輩を見つけ出していく。

 しかし、新参者だからと言っても怪しいとは限らない。やはり、決定的な証拠も必要だ。江渡弥平のように、多くの人物と交流のある者ならほとんど黒だな。

 飽きやすい性分の俺が二時間ほどその作業を続けてみた。もう飽きた。無理だ。体がだるくなってきた。気分転換に鍛治屋のところに行ってみよう。ゆっくりと立ち上がった。

「すまん、小十郎、景頼。父上に約束していた火縄銃の強化版が完成しているかどうか、鍛治屋のところに行ってみる」

「えっと」景頼は顔を上げた。「若様。火縄銃の強化版というのは?」

「パワフルな火縄銃だ。いや、火縄ではないな。拳銃だよ」

「そのような物が出来るのですか?」

「見たいか?」

「はい」

「よし。じゃあ着いてこい。小十郎もだぞ」

 二人を連れて鍛治屋に顔を出した。

「おい、鍛治屋。完成しているか?」

「これは若様。試作品ですが、前回の物より威力も安全性も高い物が出来ていますよ」

 鍛治屋から拳銃を受け取った。次に城の外に出た。火薬と弾丸をさくじょうで押し固め、木を狙って撃った。思ったより威力が上がっている。強化版が完成したな。だが、この威力だと銃身が溶けやすいから連続で発射は避けた方がよいか。あとは、引き金の辺りには用心金ようじんがねをつけさせておこう。あいつら、悪意で用心金をつけてないんじゃないか?

「まずは景頼が試しに撃ってみろ」

「わかりました」

 俺は景頼に拳銃を渡した。景頼はさすが伊達氏家臣だ。俺より弾丸を詰め込むのがうまいし早い。そのまますぐにかまえて撃った。

「どうだ、景頼」

「かなりいいですね」

 小十郎も試し撃ちをして、改善する点なども尋ね、全て鍛治屋に伝えた。これで完成品が期待出来そうだ。


 また部屋に戻って、作業を進めた。結構めんどいんだよね、この作業。だけど、小十郎と景頼にまかせるわけにはいかない。そのようでは輝宗から家督を継いだ時に家臣に裏切られる。ただでさえ弟の竺丸派の家臣が多いわけだし......。これも全て義姫が俺を嫌うからだ。あのクソ親め。大嫌いだ。

 歯を食いしばって目を大きく見開き、書物を読みあさった。江渡弥平についての書物はない。当たり前のことだ。奴はタイムマシンを使って戦国時代に来ていたのだからだ。そもそも、タイムマシンって作れんのかな?

 こう見えても俺は理系だ。考えてみると、タイムマシン作れなくね? ティプラーマシンってのが実際にはある。イギリスの数学者フランク・ティプラーが発案したマシンだ。超高密度の円筒を超高速回転させる。アインシュタインの特殊相対性理論を利用している。というのも、運動の速度が光速に近くなるほど時間が遅くなるウラシマ効果のことだ。ウラシマ効果は読者のほとんどが知っているはずだ。ファンタジーやらフィクションの物語でよく登場するあれだ。

 ティプラーマシンの仕組みをざっくりと説明する。超高密度の円筒の外周速度が『光速の半分になる速度(光速の半分は秒速が約1億5千万メートル)』で回転させる。すると、円筒の中心部近くの時空が歪んで時間混合領域と呼ばれる空間が現れる。この領域を宇宙船で周回することによって時間旅行が出来る。あれ? 意外と簡単じゃね? と思ったら大間違いだ。円筒は直径10キロメートルで長さは100キロメートル、太陽と同じ質量でなくてはならない。また、回転数は毎秒2500回。なかなかタイムマシンってのは現代の技術では無理ってわけだ。

 でもまあ、俺を転生させてくれた神様・アーティネスがいる時点で不可能なことがなさそうな気がする。そう考えてみたら、タイムマシンもありそうだ。ありえないことではないな。天下統一したあかつきには、神に挑んでやる。今の目標はとりあえず、初陣で勝利することだ。それが天下統一の第一歩。伊達政宗の歴史をなぞるしかない。

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