伊達政宗、側近の看病は伊達じゃない その壱

 俺は完璧な拳銃の設計図を完成させた。銃身は短く、銃身の上部を開閉式にした。簡単に火薬と弾丸を詰められる。引き金を引くと銃身のすき間に熱い針を差し込むために、短いハンマーを動かす仕組みにした。威力を上げるために、爆風の強い火薬も採用した。

 狙いはうまく定まらないだろうが、強化版としては十分だ。鍛治屋に作らせ、早速鷹狩りと偽って試し撃ちに出掛けた。

「若様!」小十郎は口を大きく開いて叫んだ。「あまりお戯れが過ぎると危険です!」

「わかってる!」

 俺は試作品の拳銃を構えて、素早く火薬と弾丸を詰め込んだ。さくじょう(木の棒)を使って、弾を固定させると、ターゲットを捕捉して、引き金を引いた。その瞬間、銃身銃床もろとも爆発した。痛い! 隻眼になって以来の痛みだ。俺はその場に倒れた。

 爆風の強い火薬を採用したが、それだと銃身の強度が足りなかったようだ。痛い。

「若様! お体は大丈夫ですか!?」

「ごめん。駄目みたい......」

 そこで、意識が途絶えて辺りが真っ暗になった。やばい。


 目が覚めると布団に潜り込んでいた。上半身を起こすと、小十郎が看病してくれていたことがわかった。

「小十郎。助かった」

「若様は安心して横になってください。今は鍛治屋が銃身の強度を上げることに努めております」

「銃身が爆発してから何時間経った?」

「三時間でございます」

「父上には?」

「野生の動物にやられたと申しておきました」

「それは良かった。拳銃の試し撃ちに出掛けたことが父上にバレれば大変だ」

 俺は再び横になった。

「江渡弥平を捕まえる」

「正気ですか、若様? 奴は未来人ですよ!?」

「必ず奴を捕まえて、全ての情報を吐かせる」

「そのようなことが出来るのですか?」

「出来る。それは必然だ」

「根拠はどのような?」

「ない。根拠などあるわけがない」

「そのようなことでよろしいのですか?」

「江渡弥平を捕まえられればそれでいい。転生者・転移者について調べなくてはならない」

「拳銃を作ったなら、次は転生者・転移者をお調べになるのですか?」

「ああ。ただちに見つけ出さなくてはならない」

「......なぜですか?」

「それはもちろん、脅威になりうるからだ。場合によっては秘密裏に処分する」

「処分、ですか?」

「未来の技術を持っているなら、伊達氏の戦力を総動員しても勝てない可能性の方がはるかに高いのだ」

 小十郎はゴクリと唾を飲んだ。「未来人は全て殺処分ですか?」

「何度も言うが、場合による。相手が好意的でないなら、すかさず殺処分だな」

「若様はなぜ未来人を恐れるのでしょうか?」

 ここで俺が未来人だと言えばそこまでだ。未来の技術を過去に持ち込むのは大きな危険を伴う。また、自分が未来人だと言っても命の保証はない。戦乱の世を生き抜くには、自分が未来人だと露見してはいけないのだ。

「我々より進んだ高度な文明を築いている未来が末恐ろしい。ただそれだけだ」

「狩られる前に狩る、ということで?」

「そうかもしれない。自分より強い者がいるなら、どのような手を使ってでも乗り越えなくてはならない。殺処分でも、仕方がない」

「弱肉強食の戦国時代ですからね」

 俺は無言でうなずいた。


 体も回復した今日、俺は布団から脱けだして立ち上がった。

「拳銃を作りに行こう」

 鍛治屋のところへ向かうと、注文通りの品が出来上がっている。試し撃ちしてもいいか尋ね、水堀に向かって撃ってみた。だが、あまりうまく狙えずに腹を立てていると、一人の鍛治屋が言った。

「若様。そりゃ、失敗作のものですよ。熱する加減をミスって銃身が微妙に曲がっちゃった奴です」

「そうなのか。そいつは失敬。成功している奴を寄越してくれ」

「これです」

 鍛治屋から拳銃を受け取ると、また水堀目掛けて撃った。

「あれ? 弾が出ないぞ」

 弾が出ないから鍛治屋に見せてみた。

「ありゃ! 不純物の混ざった鉛を使って作られた弾丸だから、途中で砕けてますよ」

「鉛弾......」

 鍛治屋はちゃんとした弾丸を渡してきた。それを受け取ると、火薬とともに詰めて発射した。

「いい具合に発射出来るな。もっと威力のある火薬を使いたいから銃身の強度をもう少し上げられるか?」

「それは可能ですが、火薬も威力が高ければ良いってわけではありませんよ」

「それは承知の上で、銃身の強度を上げてくれ」

「若様のお願いなら断れません。わかりました。銃身の強度を、もっと上げてみます」

「了解。威力のある銃を期待している」

 鍛治屋はその後もうんたらかんたら言っていたが、ほとんど覚えていない。次に向かったのは、景頼の元だ。

「景頼!」

「わ、若様! 体の怪我は完治されたのですか?」

「そのようなことを言っている場合ではないことは、江渡弥平との一戦でわかっているはずだ。即刻未来人を見つけ出さなくてはならない! 小十郎を呼べ!」

「わかりました!」

 景頼と小十郎という、いつものメンツがそろった。俺は部屋に招き入れ、口を開いた。「未来人が敵方の味方をするなら、こちらが負ける確率は格段に上がる! そうなる前に、未来人を捕らえる。出来るならば、生け捕りにしたいと考えている!

 この計画は他言無用! もちろん、父上にもだ!」

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