伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その拾捌
「まさか、そんなことが」愛華の父親は
「そういうことになります」
さすが
「ちょっと父さん、どういうこと?」
愛華の父親の師範さんは、このことを説明して良いか視線を送ってきた。なので俺がうなずいてやると、体を震わせながら説明を始めた。
「名坂少年は
加えてあの突き技のスピード。あのスピードで突かれては、さすがの俺でも反応に遅れてしまう。俺が反撃しようと動き出す頃には、俺は死んでいるはずだ。名坂少年はノーリスクで俺を殺せる、というわけだよ」
その説明を聞いた愛華は震え上がった。しかし一から十まで全て聞いてやっと理解した愛華は、震えて驚きつつも目を輝かせた。
「私の思った通り、あなたはすごいよ! ねえ父さん、この人になら剣術を教えても良いんじゃない?」
「名坂少年に俺達を殺す気があるならば、とっくに俺達は死んでいる。先ほどの手合わせでも殺そうと思えば殺せたはずだ。それに名坂少年は曲がりなりにも強い。剣術を教えようではないか!」
認められたことは嬉しいが、あと三日しかいられない、とは言える雰囲気ではないぞ。これは困った......。まあ、三日のうちにこいつらから剣術を習って江渡弥平達を倒せるくらいに成長しなくては。
「んじゃ、まずは自己紹介をしよう。俺は愛華の父でこの道場の師範をやってる
「私は柳生愛華。父さん──柳生師範の一人娘だよ。体術は苦手だけど、剣術だったら父さんと互角に戦える腕はある。だけど父さんは体術も混ぜて来るから、やっぱり実戦では勝てる自信はないよ」
「改めて、名坂横久です。剣術も体術も得意で、
自己紹介後に柳生師範が服をくれたので、それに着替えて今日は家に泊まらせてくれるとのことだ。俺はその好意に甘んじることにし、道場の横にくっついている家へと入った。
玄関では靴が脱ぎ散らかしてあり、俺は丁寧に靴を揃えてから奥へと踏み入れていった。リビングには脱いだ服や靴下があり、洗面所には歯磨き粉が飛び散り、物置として使われているであろう部屋からは異臭が放たれていた。まあ、あの性格の二人がいたらこうなるよなあ。
「あの、俺は布団さえあれば廊下で寝れるので。部屋とかを用意する必要はありません」
「いやいや、初めてのうちの生徒は丁重に扱わなくてはならない。でないと天罰が怖いぞ!」
「ああ、はあ......」
俺は相づちだけ打ち、言われるがままに部屋をあてがわれた。その部屋にはベットや机や椅子などが充実していて、俺の身長を優に超える本棚には歴史書の数々が並べられている。
俺は興奮しながらその本を手に取ると、剣術に関わりのある本が集められているということが察せられた。ちょうどノートとボールペンがあるので、解読しながらノートに書き出してみた。
その書き出したノートを見ながら、より読みやすくするために古風な表現を書き換えて翻訳が完了した。ため息をつきながら体を伸ばし、やりきった満足感に浸った。
「解読は内容云々を読むより楽しい作業だあーーー!」
翻訳を書き込んだノートの表紙に翻訳をした歴史書のタイトルを記入した上で、名坂横久と付け加えた。うん、懐かしい作業だ。前世の時はよくこんなことをやっていた。家にはこのようなノートが山のようにある。
久々にあのノートを読み返したいと思ってしまった。それが叶わぬ願いだと知っていても。
「ええと、この訳した本によると──刀は接近戦に特化したものであり、現代のような超遠距離戦での戦争には役立たずだそうだな。対人戦闘における牽制くらいが刀の有用性で、それ以外で活躍する場は皆無......だと!? ふざけんなよ、著者は誰なんだっ!」
著者の名前を見たが知らん奴だった。ただ著者は刀をまったく信頼していない様子で、刀をバカにするためにこの本を書いたのではないだろうか。タイトルも『刀を否定する』とあるし、著者は刀にどんな恨みがあるのかが逆に気になってしまう。
そんなことは、今はどうでもよいか。まずは疲れを癒やすことを最優先とするべきだ。疲労していては俺が江渡弥平達を倒すことは出来なくなってしまう。まずはベットへとダイブをした。
伊達政宗になってから初めて体験するベットだ。非常に柔らかく、床に布団を敷いて寝るのとは大違いだった。こりゃ睡眠の質も高くなりそうだな。
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