伊達政宗、脱出するのは伊達じゃない その伍

 絶対に貫けない防御壁を必ず短時間で完成させる。ウルツァイト窒化ホウ素の生成は無理だとして、早々に諦めた。次に利用出来そうな物質は何だろうか。硬い物質か......。あれなんかどうだ? THE『オランダの涙』。

 仁和から教わった(←頼りすぎかな?)のがオランダの涙というガラスだ。いやぁ、オランダの涙には興味があったから何となく覚えていた。興味があっても何となくしか覚えていないんだ、何てツッコミは無しだ。

 オランダの涙は水滴みたいな形をしたガラスなんだが、何分なにぶんまったく割れない。と言っても、水滴の細い部分、つまり尻尾を割ったらすぐに壊れる。割れないのは、膨らんで太くなっている部分だ。

 オランダの涙は普通のガラスから作ることが可能だ。ガラスを溶かして垂れる瞬間に水に突っ込むことで水滴の形のガラスが出来る。

 まずは水の生成だ。ロウソクを出して、着火。袋の口をロウソクの上にする。熱気球みたいな画になる。そんでもって、袋を冷やす。そうして生成された水の分子をいじくって量を増幅させる。

 火は二酸化炭素と水蒸気を燃やしながら排出するから、袋には水蒸気も溜まっていた。それを冷やしたら水蒸気は水になる。分子をいじれば量は増える。あとは圧力を......おっと。圧力をかけすぎて、火から水蒸気とともに排出された二酸化炭素が水と融合した。炭酸水になっちまった。

 ちなみに、俺がヘルリャフカを倒した時に水を生成した方法は、体内から無理矢理水を出す方法だ。だが、体内から水を出すのは危険を伴う。しかも、体内から出した水は分子いじっても量は増えない。

 ガラスは分子配列を知らんし、生成のしようがない。どうしようかな。

「おっ!」

 鏡があった。この時代の鏡なら、現代と同じくガラスの裏面に銀の薄膜が貼られている。銀の薄膜その他を取り払ってしまえば、ガラスだ。

 俺は鏡をぶち壊し、ガラスだけを取り出した。ガラスを熱して溶かし、垂れたのを水に入れる。ジュー、という美味しそうな音がしてからオランダの涙が完成する。

「このオランダの涙を最強の防御壁に応用することは出来ないのだろうか」

 オランダの涙を壁に固定してみて、攻撃をする。拳銃でも作るか。

 鉄の筒の片側をふさいで、塞いだ方に火薬と銃弾を詰めて、外側から火薬を着火出来る程度のものでも良い。拳銃なんて、最近は権次達に頼らなくても作れるようになった。

 鉄の筒には取ってを取り付けて、鉄で片側を塞ぐ。火薬と銃弾は鷹狩りだから一応持ってきたのが功を奏した。火薬と銃弾を詰めたら、着火。

 おー! 弾をはじきかえした。ただ、水滴の形だから、防御壁にするなら邪魔だな。

 けど、オランダの涙以外に防御壁の候補なんか無いぞ。俺はどうすれば良いんだ!? ここは小説の世界じゃなくて、現実だ。そう都合良くは流れないか。

 次に硬い物質と言えば、もうダイヤモンドしか思いつかん。駄目だ、仁和の化学知識がないと防御壁は完成出来ない。


 仁和は首を傾げた。「おかしくありませんか?」

「あ?」二階堂は指を鳴らした。「何がおかしいってんだ?」

「ここまで探しても、政宗殿は見つかりません。私達の見当違い、ということはないでしょうか?」

「見当違いだぁ? ハァ。忠義、ちょっと来い」

「は、はい」

 二階堂は忠義を呼び、見当違いのことを話した。

「小十郎殿に伝えてきますか?」

「バカか、忠義は? それが見当違いだったらどうするんだよ」

「でも、確かにここまで見つからないのは変です」

「......若様なら大丈夫だろ。独眼竜って呼ばれてるし、竜の化身だったよな? それに、ヘルリャフカ倒すくらいの攻撃力。あの威力と出力を持ってすれば、誘拐犯は一掃出来る。仁和から教わった技もあった」

超過熱オーバーヒートですか?」

「そう、それ」

「あれはヘルリャフカくらいにしか使えないんじゃないですか? 超過熱オーバーヒートは人にやれば死にますが、若様は人を殺すことは避けているようですし」

「いや、若様のあの目はやるときはやるぜ」

 二人の会話を聞いていた俺は、思った。やるときはやる奴、という認識はあとで正しておこう。あと、超過熱オーバーヒートは使えない。王水は米沢城に置いてきた。クロークの体技も、廊下にいる大人数には威力を発揮するのは難しい。雷を使おうにもここは地下だ。

 こういう時のためにも、一刻も早く『完全防御壁』を完成させたい。

 クロークは小十郎に話し掛けた。

「どうしましたか、クロークさん」

「小十郎殿。我は鼻が利くんだが、政宗殿の臭いがまったくない」

「地下ということですか?」

「そう。入り口は臭いが漏れないくらい塞がれている可能性が高く、もしかすると仁和殿が考えるより遠くが監禁場所ということもある。二つに一つだ」

 ここで俺がツッコむ。ごめん、クローク。両方なんだ(*゜▽゜)ノ

「確かに、それはまずいですね。クロークさん。引き続き臭いを嗅ぎ分けていてください。仁和殿と話して来ます」

 仁和は小十郎の元へ、小十郎は仁和の元へ向かった。結果、すれ違いとなり、両者ともに焦っていた。

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