伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その参壱

「ん?」俺は鬼崎を指差した。「ってか、普通に目が見えてんじゃね?」

 鬼崎は写真を放り投げた。「抹殺対象が見つかったので、つい演技を忘れてしまったな」

「やっぱり失明してなかったんだな」

「まあね。演技だよ、演技。と言っても片目は失明していて義眼になっているがね。......そんなことより、裏切り者は見つけ次第殺せと言われている。遠慮なく君達を殺させてもらうよ!」

 裏切り者、つまり未来人衆のことだ。まあこの人数で協力すれば鬼崎一人は倒せるだろう。

「東野と忠義は弓で牽制、八巻と二階堂は俺と連携、仁和は後方支援をしろ!」

「「了解!」」

 二階堂が先手を仕掛けると、それに続いて八巻と俺が殴りかかった。東野と忠義は弓を構えて牽制しつつ、仁和は周囲を警戒した。

 鬼崎の体術は優秀で、俺と八巻と二階堂の三人を相手にしても余裕で戦えていた。と言うか、鬼崎の方がやや優勢だった。

「二階堂と八巻は離れろ! 東野と忠義は弓を射ろ!」

 俺の指示で戦闘から俺達が離脱したのを確かめてから、東野と忠義は矢を放った。仁和は二人に新たな矢を渡し、鬼崎は弓矢の攻撃から逃れるために奥へ逃げ込んだ。

 鬼崎を追うべく弓を持った東野と忠義を先頭にして奥へと進むが、奴の姿は煙にでもなったかのように消え去った。俺達は建物中を探し回ったが、結局江渡弥平の姿すら確認出来なかった。

 後に隠し通路が地下で発見され、地上へと続く道になっていた。おそらく江渡弥平達はこの隠し通路で逃げおおせたのだと思われる。

『政宗よ。また江渡弥平を逃がす羽目になったな』

「まったくだ。次こそは捕らえたかったんだが、江渡弥平のことだからまた俺を殺すために動くはずだし」

『それもそうだな』

 毎回江渡弥平を逃がしてしまい、大した成果はない。ただし今回は成果がなかったわけではない。奴らが残していった大量の書物の中に、何やら興味深い記述があったのだ。残念ながらタイムマシンについてではなく、江渡弥平達の計画の一部が記されていた。

 そこにはこの時代では不治の病と言われる病気についての実験結果などが書かれている。サル痘によるインチキもここに書かれていて、これは江渡弥平による病気の研究の全貌ぜんぼうのようだ。

 これを仁和を見せたところ、彼女は興奮しながら内容を読んでいった。

「さすがは江渡弥平、と言ったところでしょう。病気についての彼らの研究の水準は非常に高いです。そしてここに目を疑うことが書かれています」

「何て書かれているんだ?」

「『狂犬病による人間の兵器化計画』とあります」

「人間の兵器化計画!?」

「狂犬病をベースに、いわゆるゾンビウイルスを作り出そうという計画のようですね。狂犬病が人に感染して発症するとほぼ100%の確率で死んでしまうのですが、人が狂犬病に感染しても死なないように致死率を下げるように改良。さらに感染してすぐに症状が現れるように出来れば、ゾンビウイルスは完璧に完成すると書かれています。確かに狂犬病の潜伏期間は人によっては数年間だったりもしますからね」

「どこまで実現出来ているんだ?」

「狂犬病の致死率を下げることには成功したようですが、その後は行き詰まっているとのことです」

「実現したら地獄と化すぞ」

「ええ、まずいですね。ゾンビの特徴の一つである噛まれたら感染するという部分が狂犬病にも当てはまりますし、江渡弥平達ならやりかねません。ですが過去を変えてしまうと彼らも困るので、この人間の兵器化計画が実行されるとしても被害は少ないでしょう」

「対処方法はあるのか?」

「私は病気に関してはあまりくわしい自信はありません。知識はありますが対処方法と言われると......。ですから、医療に精通した方に協力してもらう他にありません」

 医療に精通した奴と言えば、医者をやっている奴らが好ましい。だが戦国時代の医療は二十一世紀の最新医療と比べるとお粗末なものでしかない。未来人衆の中で医療にくわしいのは仁和以外には知らないな。

「どうすれば良いだろうか」

「未来人の中から医療にくわしい人を探し出すのは大変です。かなりの時間を要すると予想出来ます。ならば、この時代で一番優秀な医者や科学者などを探すしかないです」

「一番優秀な医者や科学者か。探してみるが期待しないでくれよ」

「わかりました」

 その後様々な奴らに聞いて回ったところ、変人ではあるが医学にくわしく優秀な科学者が山小屋にもって科学の研究をしている、という情報を得た。

 それを仁和に話すと早速その科学者の元へ行くこととなり、城を他の奴らに任せて二人で例の山小屋まで歩いた。

「随分と山奥まで来ましたね」

「変人科学者のようだから、人との関わり合いを断ち切るために山奥で研究してんだろ」

「それはそうなんでしょうけど、さすがに疲れましたよ」

 何時間か歩いた末に見えてきた山小屋。その山小屋の窓から中を覗き込むと、誰かが鍋に赤々とした血液を注ぎ込んでかき混ぜていた。そんな光景を見てしまった俺は、開いた口が塞がらなくなってしまった。

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