伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その参零

 盲目の好青年、鬼崎悠介。威風堂々たるたたずまいなどから推察するに、こいつは江渡弥平の組織の中核に食い込んでいるはずだ。つまり、人を御する立場にいる。

 前世ではよく思い知っていたが、上に立つ人間は傲慢ごうまんさと慎重さに磨きが掛かる。管理職の奴らを見ていれば明白だ。

 この男は何らかの能力が他より優れていたからこそ、組織の幹部へと成り上がれたのだろう。ましてやあの見た目......二十代前半だと思うが、その歳で江渡弥平の組織の幹部になれるということは相当手強い相手だということに疑う余地はない。

 現に鬼崎は盲目のくせに俺の位置を正確に把握している。突出した探知能力だな。

「鬼崎、と言ったか? 男なのに長髪とは感心しないな。耳が見えるくらい短く切ったらどうだ?」

「あいにく僕は長い髪を気に入っていてね。切ろうとは思っていないよ」

「そいつは残念。だったらお気に入りの散髪係を──」

 話しの途中で鬼崎からの攻撃を受け、腕で防ぎつつ思考を巡らせた。鬼崎が好印象だったから鐵のように話しをしつつ情報を引き出せそうだと思ったが、思い違いだった。

 こいつは喧嘩っ早い性格のようだ。情報を引き出せる可能性は皆無。ならば早々に決着を付けて先へ進むまでだ。

「鬼崎!」俺は右足を踏み込んでから、左足で顎を狙って高く蹴り上げた。「死ねえええぇぇーーーーー!」

 気配を感じ取れても鬼崎は盲目。さすがにこのスピードの蹴りに反応出来るわけがない。が、鬼崎は不敵な笑みを浮かべながら難なく蹴りを避けたのだ。

「なっ! 目がもう一つあるとでも言うのか!?」

「盲目の僕的には目がもう一つ欲しいけど、目は二つしかないな」

「ならどうやって蹴りに反応出来たんだよ」

「手の内をさらすことは出来ないけど、強いて言うならば空気の流れを感じ取ったんだ」

「空気の流れ? へー、耳に付けてる機械で俺の位置を把握しているわけじゃないんだ? 長髪で隠してるようだけど、かなり見えてるよ」

「ブラフ、はったりか。良いね。好きだよ、そーゆーの」

「はったりじゃない。その長い髪を掻き上げて耳を見せて見ろよ」

 実際に耳に何か付けているのを見たわけではないが、奴が盲目であり耳が髪で隠れているからあり得ない話しではない。よく見たらこの部屋にカメラが設置してあるようだしね。

「ハハハ。君、面白いよ」鬼崎は髪を掻き上げた。「どうだい、僕の耳に何か付いているかな?」

「......もう片方も見せてみろ」

 左右の耳を交互に見たが、機械が付いているようには見えなかった。それもそうか。あの蹴りは結構早かったけど、耳で指示を聞いてから反応出来るわけない。

 ならばどうやって俺の動きを知っているのか。鬼崎が言うように、やはり気配だけで? いや、考えにくい。気配だけで俺の動きがわかるなんて人間業じゃないぞ。それこそ、神か悪魔でもないと。

 ただ鬼崎はクロークのような魔人になっている跡が見られないし、神ならば神力を使える。考えられることとしては、実は失明しているわけではない、などが現実味を帯びる。

 やはり義眼のように見せているだけで、実際は両目とも失明していないのかもしれない。ならば逆に鬼崎の背後を取るべきだ。

「実は失明してはいないのではないか、何て考えてないかな?」

「な、なぜそれを......」

「勘だよ、勘。僕と対峙した奴らのほとんどが失明していないと思い込んでいたんだ」

 嘘を言っているようには見えない。見えないが、ならばどのような方法で俺の位置や動きを知っているのだろうか。謎は深まるばかりだな。

「正直に聞こう。何で俺の動きがわかるんだ?」

「うんうん、正直なのは嫌いではないよ。さっきも言ったように、空気の流れを感じ取っただけだ」

「嘘をつくな」

「僕はしつこい奴って嫌いなんだ」鬼崎は俺に近づくと、寝技へと持ち込んだ。「格闘技は大体マスターしているんだ」

「ぐああああぁぁぁ!!」

 鬼崎の並外れた腕力によって体をガッチガチに固められると、何本かの骨を折られたような痛みが全身を駆け抜けた。

「そんなに叫んでどうしたんだい?」

「骨が折れたんだよ、ちくしょうめ!」

「骨が折れた奴は自分から折れたって言わないよ?」

「マジで折れちまったんだ。自分の体は自分が一番理解している!」

「良かったじゃないか。骨が折れたら太くなると言うし」

「バカだな、お前は。骨が折れると、折れた部分に周囲の骨が集まって瘡蓋かさぶたみたいになる。それが原因で太くなったように見えるだけであって、折れた部分がくっ付いたら元の大きさに戻るんだよ」

「博識だね」

「仁和から聞いただけだ」

 骨が折れてしまっては鬼崎を倒すのは難しい。仲間の応援を待つか、撤退するかしないと。

「政宗殿の危機を感じ取り、急ぎ馳せ参じました!」

 絶望したと同時に聞き覚えのある声が耳に入り、顔を上げると仁和を先頭に未来人衆の主力格が束になって駆けつけてきた。

 忠義は弓を構えた。「若様から離れてください!」

「仁和凪、二階堂和哉、遠藤忠義、八巻健介、東野一成......。全員ボスを裏切って伊達政宗の配下となった輩だな」鬼崎は未来人衆全員の顔写真を取り出すと、ある程度目を通した。「お前ら全員、抹殺対象だ!」

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