伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その弐玖
敵襲は一夜にして数えられぬほどであった。そのたびに捕らえた敵を縄で縛り上げた。武器も調達することが出来て、廃虚のビルで一日を過ごした。
二十一世紀に来てから四日目の朝。アマテラスの力によって戦国時代に戻ることが出来るようになった。
「では柳生師範、愛華。そろそろ俺は迎えが来ますので、もう敵に追われることはありません。二人には迷惑を掛けました」
「いやそんなことは構わない。こちらとしても良い経験になった」
「私も! 楽しい非日常だったよ!」
「それではまた会う日まで。いつかまた会えると良いですね」
ビルの窓から身を乗り出した俺は背を下に向けて飛び降りた。まさか生きている内に自分の意志でビルから飛び降りることがあるとは思わなかった。
『政宗、戦国時代に強制転移させるぞ!』
「早くしやがれ!」
そこで意識が途切れた。次に目が覚めた時には、木刀を片手に陰陽師の御影と鐵の二人を相手にしていた。状況から見て、まだ俺は毒針を舐めていないはずだ。勝機はある。
「やっとだな、御影と鐵! 二回戦目といこうか!」
「はあ?」鐵は首を傾げた。「僕らが君と合うのはこれが初めてなんだけど?」
「そうだな。んなこと関係ねぇから、さっさと勝負しようぜ」
「僕らの情報が欲しくないの? 話し合わずすぐに戦うのは不粋じゃないかな?」
「こちとらテメェらのせいで苦労してんだよ。早々に二人を捕まえて情報を聞き出してやるから戦おうぜって言ってんだ!」
「教育を受けてそれかい? 寺の坊主どもから何を習ったんだか......」
「へっ! 俺は師匠からちゃんと学んだぜ。人を傷付けてはいけないってな!」
「何かを成し遂げるためには犠牲は必要だ。そんなことも知らないのか?」
どうやら鐵は俺なんかよりも悪口が得意なようだ。さすが悪賢いだけはある。俺も悪賢いってことには自信があったが、上には上がいるものだな。
「もう良い! 戦おうか、鐵!」
「そうだね、戦おう!」
後ろには御影が立っていて退路を断たれているから、鐵とは一撃で片を付けてから御影と拳を交えるというのが理想だ。二人相手では分が悪い。
また、鐵と戦っている最中に背後から御影の攻撃を受けようものなら俺の敗北だ。だから何としてでも二対一にはならないようにしたい。しかし鐵がそれを許すとは思えないし、それなりの対策をしているはずだ。
柳生師範から教わったことを最大限に活かして鐵を倒す他に手はない。まず最初に倒すべきは鐵なのだ。
床を蹴って前へと飛び出すと木刀を投げつけた。鐵がそれを対処している間に壁を蹴って方向を変え、側頭部を蹴り飛ばした。
「ガハッ!」
側頭部に受けた衝撃によって一時的に気を失った鐵は、俺の蹴りの勢いで数十メートル先に吹き飛んだ。
「次はテメェだ、御影!」
「見事! 褒美として貴殿の相手を務めようぞ!」
「そいつはありがたいな! テメェもぶっ飛ばしてやるよ」
重心の位置を気付かれぬように移してから接近すると、顎を蹴り上げてから足を首に
「大したことないじゃねぇか」
勝った気になって安心していると、御影の巨体によってあっさりと拘束が解かれてしまった。
「貴殿の体が大きかったら動けなかったかもしれぬが、重りとしては貴殿の体は不十分だった」
「そうかよ! だったらこうだ!」
俺の体を透明にさせると気配を殺して近づき、防御壁によって硬くした足で金的を蹴り飛ばす。すると御影は涙を浮かべながら悲鳴を上げ、泡を吹く始末だ。有効打になるようなので何度か金的を蹴ってみると、ついには気絶してしまった。
「去勢していたらその巨体を保つのは無理だと思ったよ。男の弱点は金的だよな、やっぱり。ハハハハハ」
毒針を舐めなかったので今回は倒れずにすんだ。そして二人の片足のアキレス腱を切らせてもらうと、江渡弥平を探すために先を急いだ。
二百メートルほどあった通路を抜けるとやけに広い部屋があり、その中央を陣取っていたのは爽やかな好青年だった。
ムカつくほど
「まさかとは思うが、御影と鐵は負けたのか?」
「そのまさかだ。あの二人は俺に負けたよ」
「ボスに聞いていた通り、本当に伊達政宗の軍勢は強いんだね。で、君はその政宗か? それとも政宗の配下の一人か?」
「何だ、目が動いていないと思ったら二つとも義眼かよ。盲目か」
「問いに答えよ。君が政宗なのか?」
「いかにも、いずれ世界を席巻するであろう伊達政宗様とは俺のことだ」
「おやおや、政宗というのは誇大妄想狂だったのか。いただけないね」
「誰が誇大妄想狂だって? 一度も誇大妄想をしたことなんてないんだが」
「まあまあ。目が悪い者同士、仲良くしようよ」
「お前の場合は目がないだろ」
目が見えていないのなら気配さえ消せばすぐにでも倒せる。あっけないと思いつつ青年を攻撃しようとしたら、逆に反撃されて右腕にダメージを受けてしまった。
「なっ! 盲目なのに何で!? 気配も消していたはずだ! 何者だ、貴様は!」
「初めまして、
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