伊達政宗、信長救出は伊達じゃない その参

「貴様、悪魔憑きか?」

「わかるのか。そう、悪魔憑きだ」

「なぜ、ここに来たんだ」

「強き者の気配がした。伊達政宗、貴殿こそが強き者のようだな」

「強き者を探して何になる?」

「我が望みなのだ」

「戦いを望むのか?」

「そうとも言える。少し違うがな」

 悪魔憑き相手に勝ち目はない。それよりも、牛丸が心配だ。完全に誤算だった。アーティネスいわく、悪魔憑きの現れる時期はまだ早いはずだ。何で、今現れた!

「小十郎! 牛丸を診ておけ! 応急処置を! 早く!」

「はい!」

 小十郎は牛丸の元に近づいた。俺は戦闘態勢に入る。

「悪魔憑き! 相手してやる」

「来い! 我が望みを叶えるのだ」

「ただし、多対一だ」

「タイマンの方がいいが、まあ今回は良しとしよう。多対一で来い」

「よし、成実! 鉄砲隊を指揮しろ!」

「承知」

 俺は槍をつかんだ。先を悪魔憑きに向けて、突進する。硬い体にはじき返される。

「我が身体は、金属で構成されている」

「なら、鉄砲隊!」

 鉄砲隊は火縄銃を撃った。

「伊達政宗、本気を出せ」

「お次は接近戦だ」

 刀を抜き、首を狙う。身体が金属でも、首を狙えば殺れる!

 剣先を首に当てるが無意味か。強化した銃を懐から出して、連射する。弾はどれも、首から顔に当たるがダメージが通らない。

「次はこちらからの攻撃だ!」

 悪魔憑きの攻撃。俺は身をかがめる。「防御だ! お前らも、身を──」

 衝撃が俺の体を吹き飛ばした。

 気を失う前に、白い異空間の中にいることに気づく。ここはよく見る場所。アーティネスのいる神界。

「名坂横久!」

「アーティネス、なぜここに呼んだ?」

「悪魔憑きの出現。あなたの脅威になるでしょう。かなり早く、悪魔が目を覚ましました」

「......牛丸はどうなった?」

「残念ですが、柳沢氏丸は死亡。死んだ時代は戦国時代ですが、魂は2000年代に送りました。あの様子では、天国に行けるでしょうね」

「生き返らせろ!」

「無理です」

「アーティネス!」

「無理なんです。犠牲神は転生の権利しか与えられませんし、柳沢氏丸は転生させるほどの潜在能力を秘めていません」

「牛丸が死んだのか?」

「ええ。遺書を預かっております」

 アーティネスは手紙を取り出した。俺はそれを受け取って、開く。

『若様。アーティネス様によって、私は殺されたのだと知りました。私の犠牲を、どうか役立ててください。今回は、苗床が死ぬので助かるようです。 柳沢氏丸』

 俺は手紙をくしゃくしゃにして、懐に入れる。「牛丸の敵(かたき)を討つ。悪魔憑きの倒し方は?」

「ないでしょう。神の使者の力も、戦闘では使えません。これも神の使者の試練と思って挑んでください」

「テメェ、ふざけんなよっ!」

「今回は悪魔憑きを抑えます。次回はないです。では」

 戦場に戻る。前を向く。兵は黒焦げになっている。俺はダメージを受けていない。悪魔憑きは、なぜか倒れている。いや、アーティネスが言っていたな。アーティネスが、悪魔憑きを倒した。いや、悪魔本体は倒していないか。悪魔の苗床(なえとこ)を倒したまでか。

 神は下界に干渉は出来ないはずだ。アーティネスは、どうやって苗床を倒したんだ......。

「牛丸は!?」

 牛丸は死んでいた。小十郎、成実、景頼も力尽きている。


 輝宗の助けによって、怪我を負った俺達は米沢城に帰還。戦は勝利したようだが......。大切な者を、失った。

 悪魔憑きは、また新たな苗床を見つけたら俺のところに来る可能性がある。せめて、苗床の倒し方を知りたい。神様は下々(しもじも)に干渉することは不可能だとアーティネスが言っていたが、現に悪魔憑きの苗床を倒した。あれにカラクリがあるとして、そのカラクリがわかれば俺でも悪魔憑きに太刀打ち出来るかもしれない。悪魔憑きと太刀打ちする手掛かりは、牛丸の遺書ということだ。

 牛丸の遺書の筆跡は、崩れている。相当怖い思いをしたということだ。アーティネスは、牛丸が恐れる儀式的な何かをやって苗床を倒したと推理するのが妥当。

 俺は遺書を、また読み返した。アーティネスは、悪魔憑きの苗床を倒すことを牛丸に伝えたのか。なぜ何だ。そこが重要かも。

 遺書の『私の犠牲を、どうか役立ててください』の部分、牛丸が死んで悪魔憑きは倒れないはずだ。ちょっとややこしいが、もしかして......。なるほど、遺書の読み方が違ったか。牛丸は死んだ後に、アーティネスの酷い行いを暗号的に俺に伝えたんだ。わかったぞ。悪魔憑きを倒す方法、アーティネスの酷い行いが。

 遺書を丁寧に保管し、小十郎と景頼、成実の体の具合を見に行った。悪魔憑きの攻撃でダメージは深いが、神の使者の力で何とか治ってきている。死ぬことはないから安心だ。

 牛丸の後継者として、未来人衆を統率する者は仁和(にんな)凪(なぎ)とした。彼女は未来人衆の一人で、牛丸も後継者として育てていた者の一人だ。牛丸の意志を尊重し、彼女を未来人衆のトップに立てた。未来人衆の怪我は軽く、現在はほとんどの者が完治している。

 全員が完治したら、一刻も早く会議を開いて悪魔憑きを倒さないといけない。アーティネスの使った方法は、俺はしたくないからだ。

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