伊達政宗、殺生をするのは伊達じゃない その参

 政宗派の家臣が少ないことからもわかるが、俺が当主になれるとしたら輝宗に媚びへつらって気に入られるしかない。やはり、今夜の宴会にも出席しなくてはならない、と強く思った。

「わかった。その予言の書は景頼がちゃんと保管しておくと良いだろう」

「承知いたしました」

 他に転生者がいたのか......。それが気になる。未来については俺も書かないことにしよう。自分の身に危険が及ぶことはできるだけ避けたい。

「さて。雑談に戻ろう」

 かなりの時間、三人で雑談をしていた。雑談というのも楽しいテーマだったら何時間でもしていられる。しかし、前世でお祖父ちゃんの話しは長かった。内容が面白いこともあるのだが、年寄りだから結構話しが重複する。同じ話しを二回も三回も聞かされることになる。だが、お祖父ちゃんも俺譲り(普通は逆だろ!)の短気だから、重複していることを指摘しようものならそこら辺にある、とりわけティッシュケースを投げられている。そんなことはされたくないので、言われるままに重複した話しを聞いていた。あの時間は一分が一時間に感じられるくらい長かった。何時間も続けられるわけがない。

 日が暮れると、そろそろ宴会かと思い、立ち上がった。

「宴会ではなかろうか?」

 小十郎と景頼は交互に顔を見合わせて、何度かうなずいた。

 宴会前に度の低い酒で口を慣らし、宴会場に向かった。家臣もかなりの数が集まっていた。この時代は下戸げこには生きずらい世の中だ。酒好きが多すぎる。

 正座をして、盃に目を向けた。今日は十杯までなら許容範囲内だろう。昨日は呑みすぎたし、今日は控えておこう。

 周囲の家臣も見てみた。やはり、竺丸派が多いと見える。家臣の俺を見る目がギラリと光っているのだ。俺が転生したことで歴史が変わって、家督を継ぐ前に殺されることがないように心の中で手を合わせて祈り、現実逃避をした。転生したことで生活リズムもかなり変わった。だが、いいこともたくさんあった。毎日がカップラーメンではない食事だ。武士の食事は質より量を重視するのだが、カップラーメンより幾分もマシだ。それに、自分で料理等をする手間もない。ただ、教養を学ぶのは辛い。ハゲの僧侶に何かを学んだ際には、その日の寝るときに木魚を叩く音が頭から離れなくて大変だった。坊主は天井に逆さに吊り下げておけばいい。光りを頭に当てれば明るくなって大人気だ!

 宴会が始まったことで、現実逃避を中断させる。盃に酒を注いで、一口で一気に飲み干した。実に美味なものだ。

「若様」小十郎は俺の隣りに座った。「お酒はほどほどに......」

「しかし、この酒というのもただうまいだけじゃない。呑んだ者をハッピーな思考にさせる能力ちからを持っている」

 まあ、例外も少なからずある。前世の俺の親父は酒を呑むたびに怒って怒鳴り散らしていた。

「ハッピーな思考にさせる、というのはただ感覚を麻痺させるだけです。摂取しすぎると、死ぬ可能性も高くなりましょう」

「言われてみればそうなのだが、うまいからやめられん!」

 その後も小十郎の忠告を半ば無視し、酒を呑み続けた。無視しているやけだから、隣りの小十郎とは話すことは出来ない。いったいどうしようか......。酒だけ呑んでいてもつまらない。今日は早く切り上げることにしよう。

 尚も度の強い酒をガブガブ呑んだ。そろそろ潮時だろう。酒に手をつけるのをやめて、小十郎を見た。

「小十郎。すまなかった。酒はこれでやめる」

「若様が謝ることではありません。私は守役としての使命を全うしようとしたまでですから」

 宴会が終わるまでは小十郎と話そうと思っていたのだが、そううまくはいかなかった。

 家臣の一人が入ってきて、輝宗に耳打ちした。すると、輝宗は急に立ち上がった。「何と! 家臣が何者かの手によって殺されたとな!?」

 耳打ちした家臣は、そのようです、と言った。

「どこで?」

「三の丸の一室にてございます」

「行かんとならんぞ!」

 輝宗が動いたことにより、宴会も中止だ。俺も気になるし、輝宗の後を追うことにした。小十郎もため息をもらしながらも着いてきた。

 三の丸は家臣どもの屋敷が大半を占めている。その中の一室ということは、己の家の中で死に絶えたということだな。前世だったら事故物件になって値段がガクンと落ちてもいいはずだ。

 三の丸に到着すると、輝宗に耳打ちした家臣が案内を始めた。だが、途中からは案内などいらなくなった。例の家臣が亡くなったと思われる部屋の周囲に人が集まっていて、人だかりが出来ているからだ。ざわざわと騒がしくもある。

 輝宗が現れると、集まっていた人々も自然と道を空けていき簡単に現場に入れた。前世で例えるなら、現場に到着した警部とか警部補のために道を譲る、ということだ。俺の場合は、前世で警察になっても警部補になれるかどうかだ(俺は頭が良くないから、ノンキャリアだと思う)。

「何だ? 寝ているだけではないのか?」

 輝宗の発言も無理もない。礼儀正しい感じで床に横になっていて、顔は死んだというより寝ている方に近いのだ。外傷もパッと見無いし、毒の可能性が高いな。ってか、戦国時代は毒好きすぎんだろ。毒死大国・日本か?

 そもそも、顔をよく見たら、昨日の宴会で禁酒をくらった家臣じゃないか!?

 輝宗の表情を見た。ああ、まったく死んだ者が誰か気づいてない様子だな。死んだのが昨日の禁酒家臣だということは、輝宗には黙っておいた方がいいな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る