伊達政宗、殺生をするのは伊達じゃない その肆

 遺体をじっくりと観察したい。なら、まずは輝宗に許可を取ったらいいんだな。

「少しよろしいでしょうか、父上」

「どうした、政宗」

「あの遺体を確認させてもらってもいいでしょうか?」

 輝宗は腕を組んだ。「政宗なら信用出来よう。よし。確認しろ」

 偉そうに言ってみたが、医者のライセンスもないし推理小説もあまり読まない。毒針をどこから刺したのか確かめたかっただけなのだが、これでは何らかの手柄を上げなくてはならなくなったな。

 口から毒が混入された可能性があるが、争った形跡はない。また、食べ物飲み物は周囲にはないし争わずして毒を口から混入させることは無理だな。まあ、毒入りの食べ物飲み物を犯人が片付けた可能性もあるが、この時代の食器類は目立つ。そのようなものを持ってこの屋敷を出ようものなら犯人だとバレるし、犯人の心理的にも行うことが出来ない行為だな。となると、やっぱり毒針を刺したと考えるのが妥当だろう。ひとまず、死因が毒だと結論をつける必要がある。

 遺体には思った通り外傷がない。小さな針穴も見られないし、口から毒が混入したのか?

 難しいな。目撃者が欲しいところだな。

「失礼ながら、目撃者はこの中におられましょうか?」

 一応家臣らに尋ねてはみたが、反応した奴はいない。

「政宗、どうだ? 何かわかったか?」

「父上。この遺体は少し不思議でございます。死因は毒だろうと見当が付くのですが、混入した原因がまったく不明です」

「それは面倒なことだ。殺害された可能性はあるか?」

「今のところは低いのではないでしょうか? 争った形跡がないのが決定打です」

「なるほど。わかった。この件の調査の監督は政宗に一任する。何かわかったら、逐一ちくいち俺に報告するように」

「わかりました、父上」

 輝宗はうなずいて、本丸の方へ向かって歩いていった。輝宗はあのムカつく歩き方さえ直せば、かなりいい伊達家当主となれるだろう。歩き方というのも、股を大きく開いた感じだ。少しというか、かなりうざったい。

 それはさておき、この遺体のどこから毒が混入したのか。まったくわからない。

「小十郎!」

「お呼びでございますか、若様」

「この遺体を丁寧に調べ上げたい。そのためには医者が必須だ。医者を呼んできてくれ」

「承知しました」

 小十郎は屋敷を飛び出して、医者を連れて戻ってきた。

「医者。この遺体の外傷を徹底的に確認してくれ」

 医者はうなずいて、外傷を調べだした。遺体の服を脱がせ、傷跡を見る。毒針の傷がないか、俺も加わって眺めた。

「......」医者は指を鳴らした。「私の考えでは、死因はおそらく毒です。混入方法は不明です」

「私も同じ考えだ。混入方法さえわかれば容易に解決するだろう」

「さすがは若様でございます。私が来るまでもありませんね」

「いや、そうでもない。やっぱり、こういうのは医者の方が向いている」

「滅相もございません」

 医者は一礼してから帰って行った。

「小十郎」

「若様。何でしょう」

「目撃者や遺体の発見者を集めてくれ」

「わかりました。ただちに集めてまいります」

 仕事の出来る守役だ。命令を受けてすぐに走り出していった。

 小十郎が目撃者・発見者を集めるまでは何をしていようか。

 転生者・転移者などを見つけるためには景頼の所有する予言の書の出所を探ることが必要となってくる。もし、未来を知る転生者・転移者がいるとしたら、俺の天下統一を阻止されるかもしれないからだ。また、転生者・転移者が敵方の中にいるならば歴史になぞらえて伊達政宗の人生を進めていては駄目だということだ。細心の注意で転生者・転移者を早期発見しなくてはなるまい。

 そもそも、早く初陣をしたいのだが......。その前に政略結婚がある。血の繫がっている者との結婚とは、かなり嫌な感じだ。しかも、前世ではそのような経験がないから焦ってしまう。見下されぬようにしなくてはなるまいが、右目の隻眼は好都合だ。右目のまぶたを縦に貫いた刀傷のお陰で、俺を初めて見る輩はおびえるからだ。

 しかし、おびえた者の大半は俺の人格を知って怖くないと思うと急に馴れ馴れしくなってきやがる。今日からは厳しい性格にならないといけないか。試しに、口をへの字にしてみた。水面に顔を映してみる。あまり怖い印象がないからやめた。

 遺体に外傷がない方に話しを戻そう。外傷がないといっても、見つけられないほど小さな針穴なら気づかない。それに、遅効性の毒を食膳に盛ったなら今回のようなケースの死に方もあるだろう。

 だが、それでもたった一つだけ腑に落ちない点がある。現場の屋敷の床にはほこり一つなく、綺麗に掃除されている。なぜ綺麗なのかは予想出来る。犯人が毒を盛ったあとで、現場に何かが散乱したのだろう。それを、犯人が拭き取って、拭き取ったことがわからぬように四隅まで綺麗に掃除したのが現実的だ。つまり、遅効性の毒を食膳に盛ったなら屋敷が綺麗なことに説明がつかす、自殺でもない。ただ、口に毒を混入させたのなら争った形跡はないのはおかしいし、でも外傷もない。まったく矛盾した事件だ。戦国時代に早く警察組織を作りたいものだ。

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