伊達政宗、殺生をするのは伊達じゃない その伍

 それならば、事故死は考えられないだろうか?

 例えば、誤って毒を飲み込んでしまったとか......。事故死は無いな。ありえない。いや、現場が綺麗である説明がつく殺され方など普通に考えればないだろ。

 これは、小十郎が連れてくる目撃者・発見者を待つしかないな。調査だけでは全然、真相が見えてこない。

「若様」

 ちょうど事件の調査に行き詰まった時に、小十郎が戻ってきた。タイミング良さ過ぎだろ、この朋よ!

「小十郎。目撃者や遺体の発見者などを集められたか?」

「片っ端から集めて来ました。かなりの人数がそろっています」

「それはいい。早速ここに呼んできてくれ」

「全員を一気に入れてもよろしいでしょうか?」

「かまわぬ。どんどん入れてくれ」

 小十郎は後ろにぞろぞろと人を引き連れて入ってきた。

「まず、遺体の発見者に話しを聞きたい」

「私でございます」

「そなたは?」

「私は今回亡くなった者と旧知の仲でした。ふと屋敷を訪ねてみても、返事がなく、仕方がないので覗いてみるとこの有様だったのです......」

「なるほど。確か、私の記憶では今回亡くなった者は昨日の宴会で禁酒を言い渡された奴ではなかったかな?」

「そうです。あいつは規則を破ってしまい、禁酒を言い渡されていました」

「何か不思議に思ったことはあるかね?」

「まったくありません。ただ、聞きたいことがあります。あいつは、極楽浄土に行けたのでしょうか?」

「それはわからない。わからないが、もし奴を殺した犯人がいるのなら私が見つけ出してやる」

 他の目撃者などにもくわしく尋ねたが、これといって有力な情報はなかった。それも当然で、現場を目撃した者は皆死体に釘付けで他の部分などを見る余裕がなかったのだと証言していた。仕方ない。何度見ても死体に慣れる人などなかなかいるものではない。覇を争う戦国時代ならかなり死体を見るのに慣れている人間がいても、現代から転生してきた俺は見るに堪えないものだ。

 決定的な情報や証拠もなく、本日は調査を切り上げた。


 次の日、起き上がると枕元に小十郎が立ってこちらを眺めていた。

「どうした、小十郎」

「若様。城内にへびが出現し、大騒ぎとなっています。勢子が対応しておりますが、どうか若様もお力を貸していただけませんでしょうか?」

「蛇がか?」

「ええ」

「わかった。勢子にはもう少し耐えてもらおう。弓矢や槍を持ってこい」

 俺は蛇を捕まえる方法を知らない。弓矢と槍を構えて蛇を突いて殺すまでだ。

 小十郎の用意した弓矢槍を両手に装着し、大騒ぎとなっている蛇がいる場所目掛けて矢を飛ばした。そして、槍を振り回し、蛇に当てるように努めた。

 数十分の苦闘の末に、蛇を殺すことに成功した。俺的には生け捕りにしたかったのだが、つい殺してしまった。だが、家臣からのポイントも稼げたし、良しとしよう。

 俺は蛇にはまったく通暁していない。というか、推理小説にすら精通していないのだが、かなり推理をやらされている......。さておき、大体の人は蛇を見ただけでくわしい種類までわからないだろう。俺はこの蛇の種類が気になるな。

 まあ、種類を知っても食えないな。ゲテモノは好きじゃないし。食える種類でも蛇は食いたくない。

「小十郎。この蛇はどうすればいいのだろうか?」

「蛇は私が捨ててまいりましょう」

「頼めるか?」

「ええ」

 小十郎は蛇を俺から受け取って、ささっと走り去った。

 今日は何をしようか。予定も何もないし、転生者について調べてみようと思い立った。まずは、景頼の持っている予言の書をくわしく見てみたいな。

 よし! 見に行こう! 俺は景頼のいるところへ向かった。

「景頼!」

「これは、若様!」

「今は暇だ。だから、予言の書の内容をもっとくわしく知りたくてな」

「『予言未来書 一之巻』ですね? では、着いてきてください」

 見るからに厳重な管理をしていそうなところに、『予言未来書 一之巻』が保管されていた。景頼は慎重に取り出すと、『予言未来書 一之巻』を開いた。

「俺は漢文が苦手だ。景頼が読み上げてくれ」

「承知いたしました。最初からでいいですか?」

「出来れば今の時代より先のことが書かれているページから読み上げてくれ」

「今より先の未来が書かれた部分から読み上げるのですね?」

「ああ、お願いする」

 景頼は一度咳払いをした。「1578年。織田信長公安土城城下屋敷にて火災。上杉謙信逝去。織田信長公右大臣辞任。島津義久しまづよしひさ、耳川の戦いに勝利し日向を治める」

「ほお?」

「上杉謙信の死去は、かなり大きなニュースですね!」

「そうだな......。謙信が死ぬのならば、父上も安堵されることだ。だが、そのことは他の者には言ってはならんぞ」

「わかっています」

 景頼と何時間か雑談をしあった。そして、その収穫もちゃんとある。『予言未来書 一之巻』の作者は確実に転生者か転移者だ。なぜなら、書かれていること全てが正しいことだからだ。そして、ここまでくわしく書かれていて、かつ全て正しく書かれているのなら、『予言未来書 一之巻』の作者は歴史の本を持ち込んでいる可能性も高くなるわけだ。

 その歴史の本が流出しようものなら大騒ぎだけでは終わらない。ただちに作者を見つけ出して話しをしなくてはいけないだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る