伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その参捌 

 仲間を無条件で信じる。これは綺麗事だが、それでも少なからず仲間を信じてみるのが普通だと俺は思う。一方で仁和は斉京を真っ向から疑うことしかしていない。

 斉京は元夜盗と言えど、仲間とも言い表せる存在だ。その斉京が助けを求めて米沢城にやって来たのだから、そこは格好良く救うのが一般的だろう。が、上記の通り仁和は斉京を疑っている。信じている可能性は限りなく低いと言える。

 天才は常人とはズレているようだが、仲間を信用出来なくなるなんて俺は理解しがたい。身分も関係なく、それが間諜であっても仲間なら仲間だ。

「良いですか、政宗殿。今は斉京殿の件に関与しない方が最善でしょう」

「斉京が信用出来ないからか?」

「いえ、ゾンビウイルスへの適切な対策が講じられるまでにはかなりの時間を要します。その対策を講じる前に江渡弥平達のいる本部へ突っ込むなんて自殺行為です。つまり、斉京殿の仲間を助けるには相当な不利益があるわけです。もし斉京殿の仲間達を助けることによって不利益を帳消しにして余りある利益が発生するのならば話しは別ですが、そんな利益が発生することはないと断言いたしましょう」

「仲間との絆ってのは利益や不利益、お金とかで成り立っているわけではないだろ。友情あってこその絆だ」

「天秤に掛けて尚、政宗殿は斉京殿を助けようとするのですか?」

「当たり前だ。絆ってのは合理性に欠く繋がりのことを言うんだよ」

「はあ」仁和は額に手を当てる。「負けました。斉京殿の仲間を助けるため、予定を早めて江渡弥平の本部へ突っ込むことにしましょう。斉京殿は夜行隊に所属させ、隊長の補佐役をやらせてください」

「ありがとう。仁和の言うとおり、斉京を夜行隊の隊長補佐に命じよう」

「ただし、予定を早めるのでこれから数週間は多忙ですよ?」

「構わない」

「それとゾンビウイルスのワクチンの件ですが、もう植物由来の薬だけでは無理そうです」

「つまり、植物以外から薬となる成分を抽出ちゅうしゅつしないといけなくなった、ということか?」

「そういうことです。藤堂殿と協力して頑張ってはいますが、それなりに時間を要することを頭に入れておいてください」

「俺の植物の知識は役立たなくなってきたわけか」

「はい」

 肩を落としたが、落ち込んではいられない。すぐに部屋を飛び出し、ホームズを探した。ただ奴は様々なことに興味を持つから探すのには骨が折れる。

 ホームズのことだから武器について興味を持ったかもしれない。となると、鍛冶屋がいる場所に向かった可能性は高い。俺は権次と兼三が刀を作っている場所を目指した。

「おっ!」権次は俺が訪れたことに反応しては手を止めた。「若様じゃあないですか。どうしたんです?」

「ホームズを見なかったか?」

「へ? ホームズ? ああ、若様の知り合いの異人殿ですね。今日はまだ見てないですが、藤堂様に興味を持っているご様子でしたよ」

「藤堂に? なるほど、ホームズの性格ならば藤堂に興味を持つ理由もわからなくはないな」

「お役に立ちましたでしょうか?」

「大いに役立った。感謝する」

「ありがとうございます」

「武器をこれから作るんだよな? はげめよ」

至極しごく光栄です」

 廊下を走って藤堂が使っている部屋へ行くと、ホームズとの会話が耳に入ってきた。ホームズが藤堂に興味を持っていることを権次は見抜いていたということか。恐るべき観察眼だ。

 勢いよく部屋の扉を開ける。「おい、ホームズはいるか?」

「噂をすれば政宗が来たね。何か用かな?」

「犬について話しておきたい」

「それより藤堂君のこの帳面を見てくれ。素晴らしい研究成果が事細かに記されているんだ」

「......ふむ。今は地震について研究しているのか」

 俺はホームズの持っていた帳面を受け取り、粗方目を通した。地震の揺れの振り幅について、細かく記録されている。

「あのぅ、主様にお尋ねしたいことがあります」

「ん? 何だ?」

「仁和様による地震がなぜ起こるのかという説明が僕には理解出来なかったのです。なので主様に地震が起きる原因を尋ねたいのです」

「くわしくは知らんが、俺は爪みたいなものだと考えている。地球内部ではプレートが常に生み出されて地表に押し出される。爪は定期的に伸びるけど、爪と同様にプレートも新たに生み出されて押し出されているわけだ。爪は伸びたら切れば良いけど、プレートは余分な部分が地球内部へ潜り込むようになっている。巻き爪みたいなもんだ。プレートの先が地球内部に潜り込むと、内部の熱によって溶ける。地震はプレートが押し出されて動いた時に起きる、みたいな考えで良いと思うぞ」

「爪、ですか」

「わかりにくかったか?」

「いえ、非常にわかりやすかったです!」

 藤堂は目を輝かせて説明を食い入るように聞いていた。前世で生徒に歴史を教える際にわかりやすいようにするために何かに例えていたが、生徒からは余計にわかりにくくなったと言われていた。だが藤堂にはわかりやすい例えだったようで一安心だ。

「わかりやすかったなら良かったよ」

「では今の例えを帳面に記させてもらいます」

「それは恥ずかしいからやめてくれ!」

 そんな例えが書かれたら末代までの恥だ。それは阻止させてもらうぞ。

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